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――メレメレ島、アーカラ島、ウラウラ島、ポニ島……そして、エーテルパラダイス。この彩り豊かな五つの島で形成されるアローラ地方は、活気溢れる親しみやすい場所として多くの旅行客に人気のスポットとなっていた。


そんな、特色のある島の影響からか、そこに住むポケモンたちは他の地方のポケモンたちとは違う、変わった姿を持っている。ひとつは"リージョンフォーム"。ある特定のポケモンが、アローラ地方独自の気候や風土に適応するために変化した姿だ。

――そして、もうひとつは。ポケモンが人の姿になる、ポケモンの"人型化"。この地方に住むポケモンたちはその人型化をすることにより、トレーナーと意思疏通を交わすことができ、また、彼らと同じように人と恋愛し、結婚することが許されていた。

ポケモンが人間のように暮らしているのは、もはやアローラの民にとっては常識的なことで。愛すべきポケモンと会話が出来る、と他地方ではたちまち話題となり、アローラ地方に移住する者も少なくはなかった。


……そのいずれのポケモンとも違う、ウルトラビースト――通称UBと呼ばれる異次元から現れたポケモンにより、一時は危機的状況に陥っていたアローラ地方だが、現在はそれら全ての捕獲が確認され、以前と変わりない平穏な日常を取り戻している。

――と、誰もがそう思っていたが。
ある日を境に、その日常は失われることになる。



UBの管理を任されていたエーテル財団職員の一人が誤操作を起こしてしまい、一部のUBが檻の外へと逃げ出してしまったのだ。

コードネーム、PARASITE(パラサイト)。
よりにもよって、解き放たれたのは……UB内で最も危険な力を有すると言われている、ウツロイドだった。


ウツロイド自身による被害の報告はないが、危険と報じられるゆえんはその性質にある。――ウツロイドのコードネームにもなっている、寄生する能力だ。

寄生した宿主に自身の持つ強力な神経毒を注入すると、その覚醒作用により宿主は極度の興奮状態に陥る。心理的な抑制力が麻痺した彼らが辿り着くのは、自らの欲望や衝動のままに周りのものを破壊してしまう、暴走行為だった。



初めのウツロイド寄生被害は、街で起こったトレーナー殺害事件。ポケモンセンターに勤務するナースが寄生され、宿泊する数名のトレーナーを眠っている隙に殺害したというもの。普段は温厚なナースの豹変した姿は大きなニュースとして取り上げられ、島中の人々を震撼させる事件となった。

それに続くように各地で相次いだ暴動は、さらなる悪の種を生む。国際警察の活躍により、逃げ出したウツロイドの再捕獲には成功したものの……その行為に乗じて、山賊や海賊、そして盗賊といった悪を正義とする者たちが、次々と現れるようになった。


金塊、豪華な調度品、宝石……金になりそうな物を狙う彼らにとって、豪邸に住む者たちは恰好の的だった。度重なる空き巣被害に、止まない誘拐事件……そして、中には命を絶たれる者も。

年々増えていく悪党に困窮した島の長たちは、あるひとつの政策を打ち立てる。
――護衛制度、人が人を守るための制度だ。



◆◇◆



「……なるほどねー。それで、俺たち忍が護衛役に回ることになったってわけ?」
「ああ、そうだ。元より、我ら一族は守りの武術に長けている。これから護衛人となる者たちの教育をしていく意味でも、我らは選ばれたのだ。命を守る仕事……、これほど誇らしいことはないだろう?」
「……どうだかね」


せせらぐ川の音が聞こえる大広間で、二人の男の声が反響する。一人の男は鍛え上げられた身体を仁王立ちさせ、ガチリとした腕を組みながらもう一人の男に問いかけるが。畳の上にだらりと座っていた彼は、不服そうに頭を掻きながら返事を返した。

その気だるげな声に立っていた男はピクリと眉をひそめて、目だけをジロリと彼の方に寄越す。気づいているのか、いないのか……、彼らの視線は混じり合わない。


「……とにかくだ。もう既にお前には仕事の契約をしている。ハノハノリゾートに住む御息女、アヤメ様。その方を守るのが、お前の初任務だ。分かったら早く支度をして、速やかにそこに向かえ」
「ちょっ……! 何勝手なことしてくれてんの!? もっと、事前に一言聞くとか……、やることあるでしょ!」
「お前はこうでもしないと、契約をしなさそうだからな。……これが契約書だ。分かってるとは思うが、規則を破ればそれ相応の処罰が下る。くれぐれも、粗相は起こすなよ」


思わぬ男の発言に、これまで視線を下げていた彼の顔が勢いよく男の方へと向けられる。そんな、噛みつくように怒りの声をあげていた彼の前に差し出されたのは一枚の白い紙。そこには"契約書"という言葉から始まり、つらつらと筆の流れるような文字で、護衛に関する文章が書き綴られていた。

それを手に取った彼は、悔しそうに顔を歪めて紙を握り締める。契約書を渡した男は満足そうにフッと笑い、「頼んだぞ」と一言告げてゆったりとした歩調でその場を去っていった。その背が見えなくなり、座り込んだままの彼はベシリとその紙を床に叩きつける。皺のついたそれからは、入り込んだ風に揺れる微かな音が鳴った。


「ったく、もー…親父はいっつも自分勝手なんだからさ! ……まあ、遊びがてらにちょうどいっか」


落とした紙を睨みながらグチグチと文句を垂れていた彼だったが、ふうと溜め息をひとつ吐くと、それを再び手に持ち立ち上がる。グッと背を伸ばして、そして……ポツリとひとつだけ、呟いた。


「……俺らの命は、誰が守ってくれんだろうね」


――出会いを結ぶ歯車が、ゆっくりゆっくりと、静かに回り始めた。

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