「あれぇー! どうしたの二人共、その格好!」
大海を臨む東の空に、星がちらつき始めた頃。
真っ先にそれを見つけた新は、大きく声を上げた。
待ち合わせ場所にたどり着いた面々は、やたらめかし込んだ自分達のトレーナーの姿に、驚きを隠せないでいた。
「ゆのチャァァ〜ン! どおしたのその格好〜? か〜わ〜い〜いぃ〜!」
「ゆの、肩! 肩すっごい出てる!」
興奮した様子でゆのに詰め寄る、黎明と新。
ゆのは新の言葉にぴくりと反応し、自身の露出した肩をさすった。
「えー。やっぱ肩出し微妙だったかなー」
「そんなことないです! ゆのちゃん、可愛いです!」
慌てた様子で、絆優が弁護する。
ゆのが身に纏っているのは、ショート丈のスカートが印象的な、カナリア色のドレスである。茶色いリボンで腰に結んでおり、肩は大きく開いたオフショルダーになっている。
ドレスのあちこちにはフリルやレースがあしらわれており、身長が低めなゆのの可憐さを、より一層引き立てていた。
「でも動き易いし涼しいし、良い感じだよー」
そう言って、ゆのはその場でくるりと回転してみせた。
ふわりと上がったスカートを見て厳重に注意する者は今この場には居らず、またその事に対して慮る者も今、この場には居なかった。
一方、隣では何やら大きな声で言い合う陽とミツキの姿が在った。
「なんだこれ! ミツキ、背中すっげえ開いてんぞ!」
「ちょっと、やめてよ陽!」
背後に周り込みじろじろと見ようとする陽に、ミツキ渾身の鉄槌が下る。
この男のデリカシーの無さはどこから湧いて来るのだろうとミツキは呆れたが、さほど威力の無いパンチを喰らった彼はへらへらと笑うばかりである。
ミツキが着ていたのは水色の、比較的スタンダードな型をしたプリンセスラインのドレスであった。
袖とスカートの裾にあしらわれた大きなフリルが特徴的だが、ゆのの着ているドレスと比較すると、やや大人しい印象のドレスである。
スカートはアンクル丈であり袖も長く、一見露出は少ないものの、その背中は大きく開いていた。
「ったく、レディーに対してそれはねぇだろ。陽、出直して来い」
「そうだよー。せっかくおねえちゃんがかわいいのに、もったいないよ」
それを遠巻きに見る連れ添いのポケモンも、呆れ返るばかりである。
怒られる陽を尻目に、智秋はゆのとミツキの方に向かい直し、にっこりと笑って言った。
「それにしてもおねえちゃんたち、かみがたもおしゃれしてるんだね。とってもすてきだよ」
すると何故か、それを聞いた絆優が興奮した様子で、智秋に詰め寄った。
「そうなんです智秋さん! 気付いて頂けましたか!?」
勢いよく捲し立てる絆優によると、どうやらゆのとミツキのヘアメイクは、彼女が請け負ったらしい。
ゆののミルクティー色のロングヘアは、カチューシャの様に細長い三つ編みがサイドで留められている。更に元々ストレートヘアだった彼女の髪は軽くウェーブが掛かっており、恐らく絆優がヘアアイロンでせっせと巻いたのだろう。
またミツキも両サイドに少し大き目の編み込みを施してもらっており、その先はドレスと同じ水色の花のバングルで留められていた。また彼女もゆのほどではないが前髪を緩く巻いて整えてもらっており、こちらも絆優が施したようである。
「ヘアメイクの道具まで貸出されていたので、私、頑張っちゃいました…!」
乗船後より最も晴れやかな表情で、絆優は言った。
そんな中、ゆののドレスの裾を弄っていた黎明がふと、首を傾げた。
「それでぇ〜? ゆのチャンたちはこれからどこにいくのぉ〜? でぇとなの〜?」
その言葉に、他の者は各々の顔色を変え始めた。
「デート!? ゆの、デートするの!? 誰と!?」
「え。ちが」
「俺を差し置いて、こんな可愛いミツキとデートする奴がいるってのか!? どこのどいつだ、沈めてやる!!」
「おう陽、沈めるならしっかり重いもん縛り付けとけよ」
「おじいさん、こわい〜」
「本当に止めて。違うから」
騒々しい声で辺りを賑わせる、二組のポケモンとトレーナー達。
やがて太陽は海に消え、遠く、遠くの空には、小さな月が見えていた。
海の波からきらめきが消え、のっぺりとした黒墨の様な海水が船を撫でる。
船は、波をゆったりと押して進んでいった。