100 titles
100.満開の
みんなから封筒を渡された。大きさ的には名刺が入るかな? くらいの小さな封筒だ。
何が書かれているのか期待に胸を膨らませながら封を切る。まずは咲也のものからだ。
するとそこには二枚のカードが入っていた。一枚目には今回こんな封筒を渡してきた経緯が綴られている。なんでも、とある団員が『自分の劇団を物に例えたら何か』という質問にうまく答えられなかったことを悔しがったというエピソードをきっかけに、『立花いづみとはどんな人か』という議題が団内で密やかに流行していたのだとか。
その二十四の答えがそれぞれの封筒には入っているらしい。
これは緊張するな、と改めて封筒と向き合う。
大きく息をして二十四の封筒に手をかけた。
【咲也】
舞台で精一杯咲こうとするのが役者なら、その成長に欠かせない暖かな『光』が監督だと思います。花と光、役者とスポットライト、いつだって俺たちを温かく見守ってくれた監督は、間違えなく俺にとって『光』です。
【真澄】
唯一無二の人だから何かに例えるなんかできるわけない。けど、それでも強いて言うなら『望遠鏡』。レンズの中だけを見たくて目を当てるのに、そこから見る世界はすごく広い。そんな広い世界でいつまでも寄り添っていたい。
【綴】
一言で言えば『風』っすかね。いつも背中を押してくれて、それが時々強風だなって思うこともなくはないんすけど、だけどその風に吹かれればどんな遠くだって飛んでいける、どんな世界だって見に行ける気がするってイメージが膨らむんです。
【至】
取り繕わなくてもいい。気を抜いてもいい相手だからついだらしないところも見せちゃうんだけどさ、それでも情けないとこばっか見られたいわけじゃないんだよね。まぁだからさ、言ってしまえば『セーブポイント』なんだ。これからやるぞってときも、瀕死状態でも、必ずそこにいてくれて安心するって意味で。
【シトロン】
ザフラでもニッポンでも同じに見えるものなーんだ!? セイカイは……空ダヨ。ザフラの空も、ニッポンの空もつながってるからおんなじ空! 心の広さ、美しさ、澄んだ色にバンコク交通……万国共通? そうそれダヨ! 見守ってくれるだけじゃなくって見てても楽しいカントクは空みたいネ!
【千景】
種も、仕掛けも、色のついた眼鏡だって。そんなものがなくても俺の世界の色を変えてしまった彼女こそが俺にとっては『大魔法使い』だよ。
【天馬】
オレの行く道にはいくつもステップがあって、それを乗り越えていくのが人生だって思ってた。だけどそれは少し違っていた。道はまっすぐ上に続いてない。時には分かれ道もあって、鍵がかかって進めないところもあって。そのことに気づいたオレが最初に手にした『鍵』、それが監督だって思うんだ。
【幸】
カントクは『シフォン生地』に似てる。軽い素材でできてるから風に揺れるんだけど、あぁいうとこそっくり。ふらふらしてて危なっかしい。ま、楽しそうに揺れてるの見てるのは面白いから、また次のデザインで吹き飛ぶくらい驚かせてやろ。
【椋】
可愛くて明るくてキラキラしてて、心優しくて、たくさんの人に愛される素敵な女の人……あ、でも可愛いだけじゃなくてかっこよさも兼ね備えてる、そんな新しいプリンセスです!
【三角】
カントクさんはね『舵』みたい! 面舵いっぱーい!って思い切り舵を切っても、ちゃんとオレたちのことお宝まで連れて行ってくれるんだ〜。ねぇカントクさん。次はどんなさんかくのお宝に会えるかなぁ?
【一成】
向き合うと気が引き締まるのに、これから何しようかってワクワクが止まらないカンジ、『真っ白なキャンパス』に向き合ったときにマジ似てんだよね!
【九門】
カントクは『マモノ』!気合いが入って、緊張して、情けないところも見せちゃうのにそれでもまた会いに行きたいって思えちゃう。夏のマモノ、甲子園のマモノよりも手強くて優しくてかっこよくて大好きな、オレにとって一番のマモノ!
【万里】
死んでも勝てねぇ相手……現状のままならな。劇団やめるっつったのを止められたとき、ポートレイトの嘘を見破られたとき……ひょっとしたらもっと前――オーディションの頃には負けてたのかもしんねー。ま、負けっぱなしなんてガラじゃねーから……『いつか必ず勝ちたい相手』ってことで。
【十座】
監督は『皿』みてぇな人だと思う。甘いモンも辛いモンも苦いモンも受け止めるところが特に。これからも監督が立たせてくれた舞台で、酸いも甘いも演じていきてぇ。
【太一】
端役も主演も、舞台の隅も0番だって。ぜんぶを分け隔てなく包んでくれる監督先生は『緞帳』みたいだなって思うッス! 緞帳の向こうに見える景色は、監督先生から教わったことが見せてくれる景色。これからももっとたくさんの人に愛されるためにダメなところは緞帳で隠してビシビシ指導してほしいッス!
【臣】
『長時間露光』かな。ほら、よく車のライトだけが線みたいに残った写真があるだろ? あんな感じだ。監督と見る世界は何て言うか、光をゆっくり取り込んでいるような気がするんだ。だから光がいつまでも焼き付いて離れない。
【左京】
雨が降り続いて俯いてしまうときでも、見れば自然と顔が上がって胸を張れる。濡れてしまったことも気にならなくなって、ただその明るさだけに目を奪われる。雨のあとの雲間から覗く『薄い明かりの光の線』。それはどうしようもなくアイツに似ていた。
【莇】
ボコボコしてんのを整えたり、脂を抑えたり、色味をカバーしたり、トラブルに合わせて飾るための土台を整える『化粧下地』って監督みてーだよな。こんなアクの強い連中まとめあげられんの、正直すげーと思う。
【紬】
飲み込まないといけないのに苦しい思いがするのって薬に似ていますよね。体にいいのはわかってるけど苦くて、だからアイスに混ぜて飲み込んでいました。カントクはそれによく似てる。一人じゃ飲み込めない苦しみをわかって手助けをしてくれるところが、甘くて優しい『アイスクリーム』みたいだなって思うんです。
【丞】
出にくい声を出やすくする、言葉のケアをするところが『ハチミツ』みたいだとは思う。言葉の心配がいらないから監督といるのは気楽でいい。
【密】
カントクのそばは静かで温かくて安心する。寄りかかってもいいって受け止めてくれるところ、『枕』みたい。だからつい、眠たくなって……すぅ……
【誉】
発見を得るために旅に出て様々な景色を見る。それは大袈裟なことではない。日々の発明は小さな旅の賜物だ。そこで得たものを詰め込み、持ち帰った鞄を開けるとまた新しい発見を得ることが出来る。そんな『旅行鞄』はまさに監督くんのようだよ!
【東】
熱にも耐えられるくらい丈夫なのに、落ち着いて光に透かすと繊細でキレイ。『吹きガラス』を見るとカントクのことを思い出すよ。中にお酒を注げばガラスの色が濃くなるぐい飲みみたいに、思い出を集めたらもっとカントクのことが知れるのかな?
【ガイ】
例えばここに来なければ役者もバーテンダーも志すなどしなかっただろう。一生をアンドロイドの従者として終えるつもりだった。それを変えたのはここでの出会いで、まるで酒を混ぜるカクテルのようだと思う。その橋渡しをする彼女はまるで『バーテンダー』のようだ。
そんな二十四人からのメッセージを読んでいづみは思う。
――私が彼らを何かに例えるのならなんだろう。
その答えは思ったよりもすぐそこにあった。机に散らばった数々のカードを眺める。
花が咲いたようなカード、それを見るだけで思い出されるのは舞台で咲いた彼らの晴れやかな表情。
そんな彼らが一丸となって作り上げたこと場所は、まるで花の壁に覆われているみたいだ。心が通じないうちはその壁をどう乗り越えるかと必死になって、今となってはそんな壁が自分たちの居場所を守っている。そんな暖かな壁へと変わっていった。
その色とりどりの壁を、一人でも多くの人に届けよう。
そうすればきっと、その先に待っているのは、満開の未来のはずだから。