100 titles



81.何時になった?(綴いづ)

 掠れた声で「今何時っすか」と問う声が聞こえる。振り向けば、ベッドで寝ていたはずの綴が体を起こそうとしているのが見えた。

「ダメだよ、まだ寝てて」
「いや、でも……」
「脚本、すごく面白かったけど無理はしちゃダメって言ったでしょ? 言いつけを守らなかった罰。今日は気が済むまで寝て貰います」

 いつものこととは言え、本当に命を削るようにして執筆する綴のことがいづみはいつも心配だった。普段なら真澄がついてサポートをしてくれるのだが、今回は真澄が大学の授業の関係で綴の世話をすることが出来なかった。
 だから時々様子を見に行ってはみたのだが、いづみ自身、公演を控えた組の稽古もありなかなかまめに綴の世話を焼く時間はない。結果として綴は、筆が乗ったことを言い訳に食事睡眠を怠ってただひたすら物語を書き続けたのだ。

「綴くんにはもっともっとたくさん本を書いて欲しいから、だからこそ体には気を付けて欲しいの」
「……わかりました。それじゃあお言葉に甘えてもうひと眠りします。時間もわからないほど寝るのってなんつーか、春っぽいですし」
「春眠暁を覚えず?」
「まぁ、そんな感じっす。ところで、今日の稽古は大丈夫なんすか?」
「うん、今日の分はもう終わったよ」
「そうっすか……それなら」

 布団に倒れ込んだ綴がそれを持ち上げて人一人分のスペースを空ける。

「頑張り屋さんな監督も、少し休んでいきませんか?」

 その声の甘さがとても魅力的で、誘惑に負けたいづみはそのスペースに体を滑り込ませた





花の壁