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10.偉大なる(天いづ)(他)

 いつだって父親は画面の向こうにいた。
 ある時は凄腕の医者、ある時は事件の黒幕、またある時は女子高生と入れ替わったサラリーマン……。何にだってなれるあの人は、隣にいない代わりにいつだってその背中を見せつけて来た。
 超えるべき背中がいつも目の前にいてくれるのが煩わしいこともある。そしてそれは同時にとても幸福なことだとも思う。尊敬できる親の存在というのは、堪らなくかっこよくて、だからこそ超えてやりたいと強く思うのだ。



 そんな天馬の言い分を、いづみは今になってはっきりと理解できるようになった。
 自分ではとても考え付かないような演出は、自分の中にある向上心をこれでもかというくらい刺激した。
 だから自分に自信が持てないときこそ初代組とのタイマンACTの映像を何度も見る。父との実力差を思い知りながら、その悔しさを糧にまた今から頑張ろうと自分を奮い立たせようとした。
 そして今日もいづみは画面の向こうの舞台を食い入るように見つめる。花咲か爺さんが手掛けたその舞台は、やはり何度見ても圧倒される。これが仮に父対娘の親子対決なら完敗だっただろうといづみは思う。
 だけどこれは……。


「――監督?」


 ふいに背後から声がした。振り返れば、件のタイマンACTで新生側の主演を務めた天馬の姿。
 こんな真夜中、談話室に一人で初代組の映像を見ていたことが不思議だったのだろう。訝しげに画面を見ながら、それでも何か思うところがあったのか彼はいづみの横に腰を下ろした。隣に見えるオレンジ色の髪にはまだワックスが残っていて、今撮影から帰って来たのだと察せられた。

「これ、初代組の公演だよな? なんで今更こんなの見てるんだ?」

 父の背中を確認したくて、とはとても言えなかった。気持ちは理解してくれるのだろうから言ってしまいたいのだが、花咲か爺さんの正体はたとえ団員であったとしても明かすことはできない。
 いづみは言葉を探す。自分の思いに嘘は吐かないで現状を説明するための言葉を。
 うーん、と唸って、いづみは慎重に口を開いた。

「初代組ってことは、昔はお父さんと一緒に芝居をしていた人たちでしょ? その役者たちがこんな風に生き生きと舞台で花を咲かせてる。そう思うと何て言うのかな、背筋が伸びると言うか……私たちもって思えるって言うか」
「……なるほどな。わかる気がする」

 そう言って天馬もじっと画面の中で輝く初代組たちに目を向け、少しの間は何かを噛み締めるようにその映像を見ているようだった。
 しかし僅か数十秒後、天馬はテーブルの上のリモコンに手を伸ばして映像をスキップさせてしまう。次にテレビに映ったのはクロウ伝だった。
 驚いていづみが天馬に視線を移す。彼はいたずらっぽく笑っていた。

「大丈夫だ。オレたちだって負けてない……っていうか実際勝っただろ。もちろんまだまだ高みは目指していくが、一人じゃ行けないようなとこにだってオレたちなら行ける。それを繰り返していけば父親がどんなに偉大でも絶対に追い抜ける」
「ふふ、さすが天馬くん。だけどそうだね」

 そうだ。どんなに現状では父に追いつけなかったとしても自分たちは負けていないし、このまま立ち止まるつもりもない。いつかあっという間に追い抜いて、あの鼻を明かしてやろうと思う。

「お互い頑張ろうね」
「あぁ」

 隣で短く頷く夏組リーダーは頼もしい。入団当初を思えばその成長はあまりにも目覚ましかった。

「共同戦線だ」

 そう言って笑う彼の成長スピードにだって負けるつもりはない。差し出された手を強く握り返していづみは心の中で宣戦布告した。





花の壁