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13.糖分過多(臣いづ)
「ほっとする味だよねぇ……」
「ハハ、それはよかった。今日は寒かったから温かいモンを食べて貰いたかったんだ」
他劇団の手伝いが長引き、夜もどっぷり更けた頃に帰宅したいづみを待ち構えていたのは出汁の優しい匂いだった。野菜が安かったことと、余っても日持ちすること、何より寒い中寮へ戻ってくる仲間たちを温めてやりたいと料理番は煮物を用意していた。
帰っている道中は絶対にご飯よりも風呂が先だと思っていたはずのいづみだったが、煮物の香りを嗅いだ途端にその優先順位は簡単に逆転。臣が料理を温め直してくれている間にコート類を部屋に置き、戻った頃には配膳が完璧に整えられていた。
「うーん! 本当に美味しい……」
「たまにはカレーじゃなくてもこういう煮物料理もいいもんだろ?」
「うーん、たしかにこの優しさはなかなか……なんでだろ。実家の味付けよりも甘めだからかな?」
「そうなのか? 一応それは砂糖控えめなんだけどな」
「それはって、どういうこと?」
首を傾げるいづみに臣は、冷蔵庫から三つのタッパーを持ってくる。十座や密のような甘党向けのもの、逆に千景のような辛党向けのもの、そして砂糖は入っているものの多すぎないスタンダードなもの。
たかが煮物を作るだけでもこれだけ心配りができるのか。いづみは感心しながらも、他の二種類の味も気になってしまった。食べ比べたい気持ちが湧き出て止まらなくなってしまう。
それが視線に出ていたらしく、気づいた臣は「特別だぞ」といたずらっぽく笑ってそれぞれを小鉢によそって温めてくれた。
「わっ! ほ、本当だ……これすっごく甘い……」
「ハハッ、だよな」
「だけどこれはこれで美味しいよ」
口をリセットするために白米を口にする。甘めで濃い味付けに白米という組み合わせはどうしてこうも人の心を掴んで離さないのだろう。
じわりと染みる甘味を感じながら今度はあえてスタンダードなものを口にする。これは先ほど食べたものではあるが、比べてみれば甘党向けのものとは随分味わいが違った。今度は野菜の甘味を強く感じた。やはり自分の口にはこれくらいがちょうどいいのかもしれない。
「どっちも美味しいから、三つ目の煮物も楽しみだなあ」
「え? 三つ目?」
「……え? 違うの?」
目の前のタッパーの数を数える。甘め、普通、辛め。何度数えてもタッパーは三つしかない。これは自分がおかしいのか、はたまた臣がおかしいのか。
納得がいかず首を捻るいづみ。それを見た臣は小さく笑って最初にいづみが食べていた煮物の小鉢を取り上げた。
「俺が作ったのは四つだぞ。甘め、普通、辛め……それと監督専用」
「……!」
「最高の隠し味は、『食べてくれる人への愛情』だからな」
甘く優しく笑った臣は「なんて、クサすぎたかな?」と冗談めかしていづみ専用らしい煮物を元の位置に戻す。その一挙手一投足さえ甘いような気がして目から胸やけを起こしそうだった。
小鉢が返って来たところで改めて煮物の食べ比べをする。甘め、普通、辛め、そして……。
「甘いよ、臣くん……」
「え? これでもか?」
「そうじゃなくて……」
自分専用に作られた煮物は、どんな味付けよりも甘ったるいのに優しくて、そんな彼の味が癖になってしまいそうだった。