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1.夢にまで見た(??×いづみ)
天気に一喜一憂する、なんてこれまで何度もしてきたけれど。
テレビに映る週間天気予報が示す降水確率と、窓を打つ雨粒を交互に見て溜め息を吐く。六月の空は不安定。朝は晴れ渡っていたのに、日の沈む頃にはどしゃ降りだ。まるで自分の心みたいだと思えば、受かれていたはずの心がどんどん深く沈んでいく。
「明日の結婚式どうなるかなぁ」
大好きな人と家庭を築くための大切な儀式。せっかく景色のいい場所を会場に選んだのに。大切なのは見栄えや景色じゃなく、そこから始まる新しい生活だということは承知の上で、子どもの頃に描いた夢の景色を思い浮かべる。
青く晴れた空、真っ赤な絨毯、それを取り囲む大切なゲストたちに見守られながら、母に被せてもらったベールと真っ白なドレスを見に纏い、花婿目掛けて真っ直ぐ歩いていく。その隣には――。
「……そもそもお父さんだって来ないんだから夢見ても仕方がないんだけど」
パタパタを雨粒が窓を打つ。それに混じった呟きは小さなものだったのに、誰もいない部屋にはよく響く。それがまた寂しくなっていづみは談話室のテーブルに額を打ち付けた。
落ち込んでもしょうがない。寧ろ父の無事がわかってから結婚式を挙げられるのだから、十年近く昔よりも状況は良くなっている。それに明日の主役はあくまで自分と旦那様の二人なのだ。大切な日を迎えられたことを喜ぼう。
だけど、出来れば生で見てほしかったな。ドレス姿。
そう思ったときだった。雨音とは別にパタパタという音が耳についた。誰かが来る音だ、と慌てて顔を上げる。ドアが開いて来訪者と視線がぶつかった。
「……え、」
「いづみ、ただいま」
「どうして……」
そこにいたのは父である立花幸夫だった。信じられない光景に何度も目を瞬かせる、擦る、見開く……どうやってもそこにいる男は消えることはなく、柔らかい笑顔でそこに立っていた。
「天気がぐずついてるから、もしかして君も泣いてるんじゃないかって思って」
「そうじゃなくて! どうして日本にいるの!?」
「だって……娘の晴れ舞台じゃないか」
当たり前のことのように、呆れたように物を言う父にいづみは呆気にとられる。何年も家を空けていることをわかっているのか、と言ってやりたいのに言葉が出なかった。パクパクと口を動かしていると、それを好機と言わんばかりに幸夫が言葉を続ける。
「本当はね、式のギリギリまで隠れておこうと思ったんだよ。まだ大手を振って日本に帰って来られる状況でもないし。だけどいづみが心配だったんだ」
「し、心配って……」
「だって小さい頃も、運動会とか遠足の前に天気が悪いとそうやってべそかいてたでしょ?」
「そ、そんなこと……!」
「あれ? じゃあ思い違いかな?」
「絶対に思い違いだよ! だから一旦ここから離れた方が……」
「だけどもう一つ用事があって」
「用事? まだ何かあるの?」
「泣き虫な娘に、じゃないよ。ここの監督さんと明日の打ち合わせがしたいんだ。神様が雨だなんて粋な舞台を用意してくれるから、彼女ならどう演出してくれるかなぁって」
「……!」
「ちなみに俺なら――」
「ス、ストップ! それについては私からお話しさせてください!」
おや監督さん、いつの間に? だとか。そんなすっとぼけた声に思わず笑みが溢れる。
雨が降ろうが槍が降ろうが、明日の式はきっと幸せなものになる。そんな確信だけがいづみの胸を満たしていた。