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21.それは弾むように(椋いづ)
今日は一段と秋らしい。空が高くて、イワシ雲が浮いていて、湿度が少なくてシャツ一枚では肌寒い。
こんな日はキノコカレーを食べるしかない。幸い今日のスーパーの目玉商品はキノコばかりだ。大安売りのタイムセールを狙えば大量のキノコが予算内で手に入る。このチャンスを逃す手はない――はずだったのに。
「どうして出る前に持ち物確認しなかったんだろ……」
財布を忘れたことに気がついたのは、商店街の中にあるスパイス屋を通りがかったときだった。これからカレーが美味しい食欲の秋を迎えることだし、とスパイスを買い足そうと思ったのに、鞄に財布の姿がなかった。そう言えば昨晩、コンビニに出かけるのに財布だけ鞄から抜いた覚えがある。
一度寮に戻ってもう一度スーパーに行っても、タイムセールにはギリギリ間に合う。しかしギリギリ過ぎて二十四人分のキノコを確保できるかどうかは怪しかった。
「うーん……戻るしかないのはわかってるんだけど……」
いっそ誰かに財布を届けて貰おうか、と悩んでいるとき、不意に後ろから優しい天使のような声が聞こえた。
「カントクさん?」
「あ、椋くん……」
「どうかしたんですか? なんだか顔色が……」
「ど、どうしよう〜……」
「わわっ!」
心細くなっていたところに、急に見知った顔が見えてつい弱ってしまった。自分よりも随分と年下の椋に縋るようにして弱音を吐く。このままではキノコカレー計画が台無しになってしまう、というどうしようもない弱音だ。
そんなどうしようもない弱音を受けて、椋は頼もしく笑った。
「じゃあボクが先に言ってキノコを確保します!」
「え……?」
まさかの申し出に目を丸くする。しかし椋は何でもない風に革靴をトントンと整えていた。^
「任せてください。スーパーまでの近道もバッチリですし、少しくらいなら走れますから」
「え、それなら私も……」
「いえ、カントクさんは転ばないようにゆっくり来てください」
スーパーで待ち合わせです。そう言って椋は軽やかに走り出した。
弾むようなその足取りにつられて辺りの空気がふわっと動く。彼が作ったその秋風は、冷えてきたはずの秋の夕方に似合わず心をじわりと温めた。