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23.プライド(幸いづ)
「それ、本気で言ってんの?」
「ダメかな……」
「ダメ。やり直し」
「そんなぁ……」
年上の恋人ができたのは最近のことだった。
カレーと芝居が大好きで、見境なく誰でも受け入れてしまうような変人。せっかく可愛い顔してんのに、いつもラフな格好しててもったいない。大人なくせにどこか危なっかしくて目が離せなくて、そんな彼女に自分からも目を離さないでほしいとふと気がついたときからこの恋は始まっていた。
そしてようやく恋が実ったのが月初め。街中がイルミネーションで彩られていく季節にようやく彼女を捕まえて、今日は初めて二人で出掛ける日。
それなのに――。
「デートってわかってるわけ?」
「わっわかってるよ!」
「じゃあなんでそんな買い出し行くみたいな格好してんの?」
「そ、それは……」
玄関先で待ち合わせていた彼女は、いつも通りの格好をしていた。シンプルなトップスにデニム、そしてアウター。エコバックを持っていないだけましか、と一瞬でも思ってしまうほど、彼女はなんのおしゃれもしていない。信じられない。
デートだってわかってるのにどうして。責めるような視線を送ると彼女はたじろいで、もごもごはっきりしないで言い訳をし始める。
「……からなく、なって……」
「は?」
「で、デートって意識したら! そ、その……なにを着ていいかわからなくなって……」
一瞬だけ勢いを強めたくせにすぐ尻すぼみになる。どうやら悪いことをしたと言うのはわかっているらしい。意識しすぎて何もできないなんて普段の彼女からは考えられないことではあるが、この顔を見られるのも恋人の特権だと思えば悪い気はしなくなっていた。
「……ほら、行くよ」
「い、いいの?」
「この際しょうがない。ついでだから一緒に服でも見に行けばいいでしょ」
ちょうどクリスマスバーゲンが始まる時期だ。可愛い服もたくさんあるだろう。カントクに似合う服を選んであげたことはあっても、『恋人に着てほしい服』を選んだことはない。ランウェイ公演でデートコーデ対決をしたこともあったがあれはあくまで役作り。現実に自分の好きな人が自分の横に立つための服を選ぶなんて楽しいに決まっている。
弾む心が抑えきれそうもなくて、でもそれを知られるのは恥ずかしい。だから早々に出発してしまおうと彼女の手を取って、そこで初めて彼女の指先が目についた。
「あれ?」
「な、なにか変……?」
「爪。可愛くしてんじゃん」
デートを忘れていたわけではない、というのはあながち嘘ではなかったらしい。昨晩見たときにはこんな風に色づいてはいなかったはずだ。
どんなことを考えながら、どんな風な表情でネイルを塗ったんだろう。思わず背景を想像して飾られた指先を見つめる。なんだかんだデートを楽しみにしてくれていた彼女が可愛くてすりすりその手を撫でながら「やるじゃん」と呟けば、真っ赤な顔をした彼女が言う。
「私にだってあるんだからね? 女としてのプライド」
爪の色と、その頬の赤に似合う飛び切りの服を絶対に見つけよう。逸る心が抑えきれなくてその手を引いた。