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28.カレーライスはもういらない(紬いづ)
「隣町に感じのいいカフェを見つけたんです」
「商店街の脇道にある喫茶店って知ってますか?」
「今日生徒の子に教えて貰ったんですけど……」
彼が私をカフェに誘うとき、その情報の出どころは様々だけれど、その後ろに着く言葉はいつも決まっている。
「カレーも美味しいらしいんです。よかったら今度一緒に行きませんか?」
もちろんカレーは大好きだ。自分の知らないお店のカレーとなれば興味が沸くに決まっている。
だけど、紬さんは勘違いしてる。私は別に「カレーがあるよ」と言われればほいほいついていくような女ではないのだ。たぶん、恐らく、そうありたいと思っている。
少なくとも彼が誘ってくれるのならカレーはなくたっていい。そこであなたと過ごす穏やかな時間が何よりも大切なのだから。
それを彼はワンシーズン分の冬を越してもなお気がついてくれないので、もうそろそろ我慢の限界だ。春の陽気に浮かれたついでに、あの穏やかで優しい顔を思い切り崩してやろうと思う。
「ねぇ、紬さん。この間オープンした駅近くのカフェってもう行きましたか?」
「いえ、気になってはいるんですが……」
「今度一緒に行きましょうよ!」
「え? だけど、あそこ……」
「カレーがないんですよね? いいんです、別に。欲しいのはカレーじゃなくて紬さんなので」
「……!!」
だって悪いのはカレーを口実に使った彼の方なのだから。