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29.努めて冷静な(十いづ)
無表情な方だと思っていたのに。
相変わらず眉間にシワを入れたまま、口角を上げることなく黙々と……もぐもぐと? お取り寄せスイーツを食べる彼を見る。一見、真顔で甘味を食べているだけのように見えて、しかしそれは大きな間違いだ。今ならわかる、と言うか見える。彼の背後に咲く無数の花が。
無類の甘いもの好き。それでいて、自分の柄ではないからとそれを隠そうとしていた彼。冷静に振る舞っていたつもりなのだろう。無表情のまま山のようなに積まれた甘ったるい亀吉まんじゅうを、一人平気で平らげていたのを思い出す。
そんな些細なことをきっかけに、だんだん彼の表情が読み取れるようになってきた。例えば、今日のお取り寄せである水まんじゅうは百点満点。リピート確実のお気に入りになるだろう。
そして、そんなお気に入りの甘味を見つけた彼は――。
「監督」
想像通り彼が私を呼ぶ。それが嬉しくて、だけどはしゃぐ姿を見せるのは恥ずかしいから、私も無表情を気取って呼び声に応える。
「なぁに、十座くん」
「これ、なかなか美味ぇ。よかったら一緒にどうだ?」
お気に入りをシェアしてくれる。初めは口止めだったのに、今は単純に美味しいものを分け合いたい、感想を共有したい、そんな気持ちで誘ってくれるのが伝わってくるから堪らない。
「いいの? じゃあ、ぜひ!」
無表情を装う私たち。きっと大根同士だから傍から見たらわかりやすくてバカらしいんだろう。だけど努めて冷静に、今はこののんびりとした一時を存分に味わいたいのだ。