100 titles
33.家族(??×いづみ+霞)
「好きな人の話? てことは……恋バナ!? こんなおじさんが相手で良いの?」
「ちょっ……霞さん! あんまりはっきり、そんな……」
どうにもこうにも誰かに私の好きな人の話を聞いてもらいたくなって、だけどそんなときに限って友達は多忙だし、かと言って団員に言うような内容ではない。
そんな風にぐるぐる悩んでいるところに雄三さんが紹介してくれたのは初代春組リーダーこと霞さん。きっといい聞き相手になるだろう、とアポを取ってくれたのだが想像以上の食いつきようだ。
「あぁ、ごめんね。こういう話好きだからつい……」
「い、いえ! こちらこそ、急にお呼び立てしてしまって……しかもこんな話で……」
「ううん、それは大丈夫。本当に好きなんだ、恋の話」
だからそんなにはっきり言わないで、と思いつつ頼んだばかりの桜ラテに口をつける。ほんのり塩味が桜餅みたいで美味しい。それを見て同じものを頼んでいた霞さんは写真を撮ってからストローに口をつけていた。それだけのことなのに、恋愛相談するなら雄三さんよりも霞さんだな、なんてぼんやり思う。
ただ、それとこれとは話が別で。相手がどんなに可愛い人でも、どんなに話したかった恋の話だとしても、いざ好きな人の話をしようとすればなかなか心臓へかかる負担は大きい。
美味しいことを言い訳になかなか話を切り出せないでいると、霞さんはそれを察してくれたのか優しい声で話を誘い出してくれた。
「それで? 雄三からは何か悩んでるって聞いてたんだけど……」
せっかくご多忙の中時間を作ってくれたのだから、このままだんまりと言うわけにもいかない。と言うより、私自身誰かに話したくて堪らなかったのだ。話しても話さなくても心臓が爆発しそうなら話してしまえ、と思えばこれ以上黙っていられそうもなかった。
「その……最近お付き合いさせていただいている方がいるんですけれど」
「わぁ! そうなんだ。どんな人?」
「……劇団の中の誰か、ということだけ」
久しぶりにする恋バナがあまりにもむず痒くて頬が熱を持つ。視線の置き所がわからず俯いてみるが、スイッチが入ったらしい霞さんはニコニコ笑いながら「あの子かな」「もしかしたら」といろんな可能性を想像していた。
結局その声に引っ張られるようにして顔を上げる。すると優しい色をした眼差しと視線が交わって、またその色の吸引力がすごくて、するすると悩みが口から零れ始めてしまう。
「その、街を歩いてると……親子連れが、目につくようになりまして」
「親子連れ?」
「想像しちゃうんです。もしも自分たちがって……だけど気が早すぎるよなとか、そもそも相手にその気があるのかなとか……」
なんだか自分だけが浮かれて舞い上がっている気がして恥ずかしい。そう思うとうまく彼のことが見れなくなってしまう。そんな自分がまた恥ずかしくて、どうしていいかわからない。それくらい彼のことが好きだと誰かに話さないと爆発してしまいそうだったのだ。
「私、浮かれすぎですかね……第一まだ付き合ったばかりで、二人が楽しい時期なのに」
「そんなことないよ! やっぱり家族っていいなあって思うし」
笑みを絶やさないまま、それでも先ほどまでの笑顔よりももっと緩んだ表情を見せて、霞さんは幸せそうに目を細めた。
「二人が楽しい時期ももちろんある。舞い上がっちゃうくらい幸せで、毎日が輝いてたし、これ以上の幸せなんかないと思ったよ。だけどあの子たちが生まれたらもっと幸せだと思った。幸せで泣いちゃう、なんて本当にあるんだなって」
そんな言葉を受けて想像してみる。片思いの時期は目が合うだけでも幸せで、それから両想いだって知ったときはそれよりさらに幸せで、じゃあ今自分が描いている光景が現実のものになったら……?
「……私焦りすぎだ。想像が現実になったら心臓が持たないです」
「ふふ、焦ることはないけど、想像するのをやめることもないよ。今は二人を楽しみながら、いつかの未来を想像して準備運動したらいいんじゃないかな?」
「準備運動……たしかに、幸せな想像をしている時間って何かに代え難いくらい幸せなんですよねぇ」
「そうそう! だから恋ってやめられないんだよね」
ピンク色のラテを飲みながら笑う霞さんはやっぱり私よりも可愛かった。