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37.群青(一いづ)

「んー……この分じゃ今日も部屋干しするしかないのかなぁ」

 梅雨らしい空模様。降水確率はひどく曖昧で六〇パーセントとなっていた。不安定な天気です、なんて。本当にそうなのだろうがなんだかズルく思ってしまう。不安定だから降っても晴れても許される言い訳みたいに感じてしまう。
 そんなはずのない八つ当たりのような思いをぶら下げながら曖昧な色をした空を睨みつける。いかにも今から雨を降らせます、みたいな顔をした雲。しかしそれほど分厚くはないからひょっとするともしかして。
 いっそ神に祈ってみるか。雨乞いならぬ晴れ乞いだ、と洗濯籠を足元に置いて祈ってみる。もちろん空模様に変化は見られなかった。

「うーん……この悩んでるうちに干すべきか。だけど干してるうちに降られたら……」

 いっそスワイプしたら雨雲ごとどこかに飛んでいかないだろうか、と天に向けて手をかざす。
 えい、と声を上げて左から右へ腕を振ってみる。が、これも当然空模様を変えるには至らない――はずだった。

「――カントクちゃん?」
「……っ!? か、一成くん……」
「なになに〜? 楽しそうなことしてんね!」

 二階の柵から身を乗り出してけらけら笑う一成に、いつから見ていたのかと問えば、ちょうどスワイプを始めたあたりから見られていたらしい。羞恥で顔が染まり堪らず俯いていると、そんな視線を上げさせるようなカラッとした声が中庭いっぱいに響く。

「カントクちゃん! 上見て、上っ!」
「……え?」
「カントクちゃんすっげー! 空、塗り替えちゃった! めーっちゃ洗濯日和じゃん!」

 手伝うよん、と二階から手を振る彼の向こうの雲が割れて光が差し込む。奇跡みたいな光景にうっかり口がぽかんと開いた。

 やっぱり彼は晴男だ。彼が部屋から出た途端、その身に青が群がるなんて。

 瞼に残った景色がしばらくの間離れないものだから、ついその群青に見惚れてしまった。





花の壁