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38.辛いんだけど(伊いづ)

 いつもの食卓にいつものカレーの匂い。今日は遅くまで雑務を頑張っていたから晩御飯を食べるのもすっかり遅くなってしまった。テーブルに着きながら目の前にカレーが運ばれてくるのを今か今かと待ち構える。

「よかったぁ〜。もしかしたら全部食べられちゃってるんじゃないかと思ってたんですよ〜」
「もー、忘れるわけないじゃないですか。そもそも元はと言えば支配人が悪いんですからね? ちゃんと期限まで時間があったのにこまめに取り掛からないから……」
「ま、まあまあ! せっかくのカレーが冷めちゃうので、お小言はこれくらいに……」

 雑務で体に鞭を打った後のお説教は身に沁みて辛い。辛すぎる。それよりも今は監督特製の絶品カレーを食べて癒されたい。
 そんな私に「調子がいいんだから」と呆れながらもどこか嬉しそうに笑った監督が、ようやく温め終えたカレーを運んできてくれた。スパイシーな香りが食欲をそそる。かれこれカレーも三日目だった気もするけれど、一口食べれば虜になるのはわかっているから全く嫌な気はしない。

「それじゃあ! いっただっきまーす!」
「ふふ、召し上がれ……って、あああああぁぁぁぁぁっ!」

 あむっ、と口いっぱいにカレーを頬張った瞬間、監督の悲鳴が耳を劈く。いったい何事か、と尋ねるより先に口の中が焼けるように熱くなった。視界がぼやけて、喉がカレーを受け付けなくて、無限に咳が湧いて出てくる。

「〜〜っ!! ゴッ、ゴホッゴホッ!!」
「……ごめんなさい。それ、千景さん用にブレンドした方のカレーでした」

 一日頑張ったのにこの仕打ちって辛すぎる……。そう言って涙ぐむ私に監督は「明日は支配人のリクエストカレーにしますから!」と、暗に四日連続献立がカレーだと告げた。






花の壁