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39.小春日和(紬いづ)

 少しずつ風が冷たくなってきたなと思ったのが数日前。薄手のカーディガンでは覚束なくなるだろうとコートを出してきたばかりだと言うのに、今日は随分暖かかった。気温の変化が落ち着かないせいで気持ちまでそわそわしてしまう。腰を据えようと温かいコーヒーを淹れテレビをつける。お天気キャスターが「今日は小春日和です」と告げていた。
 この分なら今日は庭の冬支度を進めよう。枯れ葉はこの間、夏組が手伝って拾ってくれたからそれほど溜まってはいないから、今日のところは鉢植えにマルチング材を……。
 そんな風に計画を立てコーヒーを啜っていると、不意にガラガラと何か金属製のものがぶつかり合うような音がした。平日の昼間から随分賑やかだ。何事かと音の方向を探る。恐らく中庭の方からだろう、と顔を覗かせる。
 すると、そこにはシャベルを持ったいづみがブリキのバケツをひっくり返して転んでいた。それも随分と薄着で。

「カントク!? どうしたんですか?」

 慌てて中庭へ飛び出す。尻もちをついた彼女は気まずそうに笑いながら、バケツに躓いて転んでしまったのだと頬を掻いていた。

「そんな薄着で大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、今日かなり暖かいですし。だから今のうちに収穫しちゃおうと思って」
「収穫?」
「はい! ターメリック、そろそろ取り頃ですよね?」

 キラキラと目を輝かせていづみがシャベルを掲げる。なるほど、そう言えば今年からスパイスの一部も庭に植えているんだった。霜が降りる前に取ってしまわないといけないターメリックは、確かに今が収穫時期だ。

「それでそんなに張り切ってたんですね」
「えへへ、もう楽しみで楽しみで」

 倒れていたバケツを持って、今にも走り出しそうないづみ。そんなことじゃまた転んでしまう、と庇護欲に駆られて、気がつけば頭の中の予定はすべて吹き飛んでしまっていた。

「もしお邪魔じゃなければお手伝いさせてもらってもいいですか?」



 紬からの提案を返事二つで受け入れてくれたいづみと並んで、庭のスパイスコーナーの前にしゃがみ込む。背中に当たる日差しが暖かく、これなら確かに少々薄着でも寒くはないな、と隣の人を見る。ワクワクする気持ちに載せられてなのか、薄赤に染まった頬が可愛らしい。砂場に来た子どものようにシャベルを土に刺して、お目当てのものを見つければやはり子どものようにはしゃいで、ただそれだけのことなのに心の中で何かが芽吹く。暖かな日差しに導かれるように浮かれた気持ちが沸いてくる。

「……冬の中にある小さな春、かぁ」

 思わずつぶやけば、「穏やかで優しくて紬さんみたいですね」だなんて返事をくれる。

 あぁほら、こんな冬の日に芽吹いた種が何だったのかをすぐに理解してしまうじゃないか。







花の壁