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40.タオル(九いづ)
みっちりしごかれた。もう、この上なくみっちりと。手の甲で汗を拭いながら、自分たちをしごいた鬼コーチ――天馬の顔を盗み見る。誰よりも熱を入れて稽古をしていたとあって、コーチ自身しっかり汗をかいていた。きっと来週から撮影で不在になるから張り切っているのだろう。稽古に熱が入るのは決まってそんなときだ。
それにしても汗を拭く仕草まで決まってる。自分も真似をしてみようとするが、そう言えばタオルを持ってくるのを忘れてしまっていた。
仕方がない、部屋に取りに……と進路を出口へ切ったとき、ひょっこりといづみが九門の顔を覗き込む。
「もしかして、タオル忘れちゃった?」
どうやらバレバレだったらしい。うっかりしているところを見られて恥ずかしいと思いながら、照れを誤魔化すように笑って見せる。
「えへへ、やっちゃったっす! ちょっと部屋に……」
「よかったら余分に持ってきたから使う?」
「え? いいの?」
それはラッキーだ、と目を輝かせる。いづみもそれに笑って応えてくれた――と思ったのに。
「はい、どう……」
「あざ……っす?」
差し出されたタオルを取ろうとした手が空を切る。「どうぞ」と言いかけて出したタオルを引っ込めたいづみは、少し悩んだ風を見せたのちに、ぱぁっと明るい笑顔で顔を上げた。
いったい何が、と疑問符が飛び散ったわずか数秒後、その思惑は大根芝居とともに姿を見せる。
「兵頭くん、お疲れさま!」
「へ!? 兵頭くん!?」
唐突な苗字呼びに心臓が変な音を立てる。名前で呼ぶより距離を感じるはずの呼び方なのに、どうしてだろう。ぐっと距離が近くなった感じがする。まるで学校の同級生みたいだ。
そんな感想は正しかったらしい。
照れたように頬を掻きながらタオルを差し出したいづみが言う。
「えへへ、運動部のマネージャーってちょっと憧れだったから、つい……」
「――っ! なにそれ、めっちゃ可愛い! ありがとう、マネージャーさん!」
思わずぎゅーっとしたくなったのに、どうしても汗が気になってしまうものだから、九門は大急ぎで差し出されたタオルをひったくった。