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43.何度も何度も

「ザフラ語で?」
「そう。なんて言うんだったっけ?」

 ド忘れしちゃって、としょげるいづみが可愛くてついからかってしまいたくなる。

「ヒドイヨ、カントク。ワタシの母国のアイサツ、忘れちゃったなんて」
「うっ……だって日頃使わないから……なんて言い訳だよね」

 しょんぼりと肩を落とすいづみ。
 しかし彼女は強い女性だ。これくらいではへこたれないことなんて重々承知。恐らく続く言葉は――。

「お願い! 教えてくれたら毎朝ザフラ語であいさつするから!」
「……フフッ、ジョーダン。怒ってたフリダヨ」
「そうなの? でもせっかくだから、今度こそ覚えるためにしばらくはザフラ語であいさつしようかな」
「嬉しいヨ! じゃあ、せっかくなら固いアイサツじゃなくてカジュアルでフランクな言い方を教えてあげるヨ」
「フランク?」
「イエス。ニッポンもそうデショ? 親しい人に『おはようございます』『こんにちは』と『こんばんは』とは言わないネ?」

 確かに、と納得する彼女の耳にシトロンはそっと唇を寄せる。囁かれた言葉を受けいづみは、赤い顔をしながら何度も言葉を口に含ませて覚えようとしていた。


 これでしばらくの間、何度も何度も彼女が毎朝自分に愛の言葉を囁いてくれる。寒くなって来た秋の朝、自分の眠気を吹き飛ばす魔法のおまじないが完成した。
 それが堪らなく嬉しいから、千景の買収とガイへの誤魔化し方を今からきちんと算段しておこうと意地悪く笑った。






花の壁