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45.繋いだ(レニ)

 歴史ある劇団、と言えば聞こえはいい。しかし蓋を開けてみればその歴史が決して華やかなものではないことを知ることになるだろう。
 夢や希望だけを詰め込んだあの場所。明るい未来を間違えなくそこに見たはずなのに、友と同じ夢を見られなくなり、軋む心に耐え切れず自ら離れたその場所は、年月を経るに連れて色褪せ、朽ちて、今にも滅びようとしていた。それでいいと思っていた。目を逸らしていれば、いつか消えてなくなるのだと、そんなエンディングを受け入れる準備は整っていた。

 そのはずなのにあの夏の日、一枚の受け取った一枚のフライヤーには滅びゆくはずの古巣の名が書かれていて、そこの主催だと名乗った女性はアイツと同じ苗字をしていた。
 そんな懐かしい記憶を攫うような夢に揺られる。そして、それを邪魔したのは、奇しくも夢に出てきたあの女の声だった。

『すみません神木坂さん。急にお電話なんかして』
「構わない。それで? 用件は?」

 昼間だと言うのについまどろんでしまっていた。そのことを悟らせないよう、平常通りの声を取り繕って手短に用件を聞く。

『……その、』
「……なんだ」
『か、神木坂さんだってお忙しいですもんね。単刀直入にお伺いします』

 その声がいつになく真剣で、つい聞いているこちらまで身構えてしまう。何か余程の事態がMANAKIカンパニーで起こっているのだろう。敵対していない今となっては、甘やかしにならない程度の協力であればしてやるつもりだ。真剣に耳を傾ける。

 そしてわずか数秒でその決意を後悔した。

『今週末お時間はありますか?』
「週末? あぁ、午後からでいいなら空いてはいるが……」
『観劇に付き合ってください。チケット代は……いえ、その後のお茶代もぜんぶ私が持ちますから』
「……は?」

 あまりに突飛な話に間抜けた声が零れた。話に頭が追い付かないのは寝起きのせいではないだろう。いったいこの娘は何を、と尋ねるより先に、電話の向こうで彼女が経緯を説明し始めた。
 なんでも、最近交際を始めた恋人と見るのにふさわしいものを探しているのだと言う。しかし自分一人の判断では自信がないから作品選びに付き合って欲しいらしい。

「どうして私なんだ」
『だって、霞さんは話が盛り上がりすぎちゃって冷静になれないですし、紘さんはご多忙、善さんはいい人だってわかってはいるんですが言葉が少なくて真意が汲み取りづらく……』
「柊は……」
『相談できると思います?』
「……まぁ、多少揶揄われはするだろうな」

 そうでしょう? と急にトーンを上げられて、それが寝起きの耳には随分響いた。完全に目は醒めていた。

「違う、そんなことが言いたいんじゃない。どうして私や初代組を頼るんだと聞いている」
『だって、父が……』
「……立花が?」
『恋愛相談は初代組にするといいって言うんです。皆さんある程度経験もあるからいいアドバイスがもらえるって……』

 しどろもどろに自白する娘の話に頭を抱える。事情があったとはいえ、あれだけ娘のことを放任してきた立花幸夫は一丁前に父親らしく娘の色恋を心配しているらしい。初代を頼らせれば、そこから情報を貰えるかもしれないと思っているのだろう。
 あるいは、本気で自分たちなら娘の力になってくれるだなんて思っているのかもしれない。

 いずれにせよ面白くない話だと思いながら、週末のスケジュールの空いたところに『立花の娘と観劇』と書き記しておいた。






花の壁