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48.夜更かし(いづみ+雄三)

 ゆらゆらと揺れる夜の景色がなんだかキレイで宝石箱みたいだと思った。それに背を向け歩くなんてもったいなくて、もう少しだけあの中にいたいと望んでしまう。

「――なに馬鹿なこと言ってやがる。ほら、まっすぐ歩け」
「はぁい……ふふふ、お酒って楽しいですね、雄三さん」
「……はぁ」

 旗揚げの頃から今日までずっと、新生の芝居を支えてくれた人。
 指導者として尊敬できる、一番身近な目標となる人。
 そして、父の話を共有できる数少ない人。
 そんな大切な人に感謝を伝えたくて食事に誘ったのに、つい甘えてしまってこんなになるまで飲んでしまった。

「ねぇ、雄三さん」
「なんだ、吐くなら早めに言えよ」
「違いますよ。もう」

 むすっと頬を膨らませて、意地悪な大人の手を離れて歩く……が、数秒後には捕まえられた。気がつけば目の前に電柱があって、雄三さんが手を引いてくれていなければぶつかっていたことは間違えなかった。

「ったく、危なくてしかたねぇ……」
「ご、ごめんなさい……」

 本当に申し訳なく思うから頭を下げたのに、お酒の回った状態ではその態勢すらアルコールを循環させる要因になってしまって、愉快に景色が回り始める。
 失敗したな、と思ったのと同時に大きめの溜め息が聞こえてきた。こんなはずじゃなかったのに。ただ、いつもありがとうと言いたかっただけなのに。

「本当、父親に似て手のかかる娘だ」
「……そう言う雄三さんは口うるさい父親みたいですね。うちの父とは違いますけど」
「うるせーぞ、クソガキ」

 文句を言いながらもどこか楽しそうに笑う雄三さん。迷惑をかけておいてなんだけど、この人は手がかかる子ほど可愛いと思うタイプなのかもしれない。
 ガキでよかった、と言わばもう一人の父親のような存在に思い切り甘えてみる。
 すると、雄三さんはやっぱり大きな溜め息を吐いて、それから笑った。

「――とは言え、お前ももういい歳だ。もう少しくらい夜更かしできるな?」
「……え?」
「まともに歩けるようになるまでコーヒーでも飲みに行くか」

 ほら宝石箱へ逆戻りだ、と手を引く雄三さんは実の父より頼もしい。
 彼氏が出来たら父より先に雄三さんに紹介したいな、なんてバカなことを考えながら深夜営業している喫茶店を目指して千鳥足を動かした。






花の壁