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4.坂道(丞いづ)(秋1)
身につけたいものならいくらだってある。役者を活かす演出、的確な指導、関係者と円滑にコミュニケーションを取るための人望や、アクシデントに対応できる柔軟性だって。身に着けたいものを上げればキリがない。
だけどこれは身につけたくなかった、と食欲の秋真っ只中の大発見。体重計に乗ればそこには受け入れられない数字が躍っていた。どうやら秋の味覚たちが血となり肉となって文字通り『身についた』らしい。
そんな後悔を引っ提げたいづみに手を差し伸べたのは丞だった。食欲の秋を楽しみ過ぎたのなら、スポーツの秋で帳消しにすればいい。ごもっともだ、と納得したいづみは先日から丞とともに毎朝ジョギングを行っている。
正直に言ってしまえば辛かった。日頃使わない筋肉たちが悲鳴を上げていた。こんなに辛い思いをするくらいなら、と毎朝思う程度には体に堪えた。
特に途中にある坂道がきついのだ。先へ先へと坂を駆け上がる丞の背中が憎らしい。
それでもいづみは今日も早朝に目を覚ましてランニングウェアに袖を通す。
――今日は昨日よりも早く上がれたんじゃないか?
乙女心と秋の空。どんなに朝が辛くても、坂がきつくても、そう言って坂の上で褒めてくれるあの笑顔一つがあれば気分は一転、こんなに頑張れてしまうのだ。