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53.by the way(太いづ)
「学校で習った声に出したくなる言葉選手権!」
「ど、どうしたの? 突然だね」
「だって受験が近いのに全然頭に入ってこないッス」
「なるほど?」
「だからゲーム感覚で口にすれば覚えられるかなって」
机に突っ伏しながらテキストもシャーペンも投げ出した太一を見て、勉強疲れの限界の察したいづみは特に咎めることなくその提案に乗ることにした。時にはリフレッシュも必要だろう。
「それじゃ、俺っちから! 墾田永年私財法!」
「おお、懐かしい……えーっと、ありおりはべりいまそかり!」
「アウストラロピテクス!」
「サイン・コサイン・タンジェント!」
意外とすらすら出てくるものだな、と思いつつ、ふと立ち止まって考える。
確かに息抜きにはなるけど、まったく勉強にはなっていないよな、と。そもそもリフレッシュに付き合っているのだから、勉強になるかどうかを問うのはナンセンスだ。それはわかっている。しかし本人は「ゲーム感覚で覚える」とあくまで勉強のつもりでこの時間を過ごしている。
それじゃあこの時間、意味がないのでは?
そんな疑問が頭をよぎって、しかしこのテンポのいい応酬を止めることも出来なくて、つい心に移り行くよしなし事を頭の隅に追いやってこのゲームを楽しんでしまう。
「水金地火木土天海!」
もうこれ以上は出ないかもしれない。いづみがそう焦るように、太一もまた限界なのかもしれない。難しい顔をして閉口してしまった。
これでこのゲームも終わりだろうか。そう思ういづみに向かい、太一は俯いていた顔を上げて真面目な顔をして――。
「By the way!」
確かにそれは言いたくなる。してやられた表情を浮かべるいづみに、太一は畳みかけるようにこう告げた。
「By the way…… I love you.」