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57.三月 初桜(マインドバトルペア)
見る者の心を和ませる春の象徴。初桜が咲く頃はまだ少し肌寒いが、桜を見ていると不思議と心がぽかぽかする。お花見なんてはしゃいだイベントの空気も手伝っているのかもしれない。レジャーシートを広げ、重箱を囲み、時には酒を飲みながらレクリエーションを楽しんで「あぁ日本に生まれてよかったな」などと桜を見る。それが堪らなく楽しくて心が躍る――はずだったのに。
いづみは目の前で繰り広げられているレクの一環、『タイマンババ抜き』をする二人を見て深々溜め息を吐く。決勝戦がこの二人だなんて、一体いつになったら終わることか。
「ほら、紬。早くカードを引きなよ。監督さんが退屈してるじゃないか」
「あはは、すみません。ただ千景さんの表情って本当に読みづらくて……」
そう言って和やかに笑い合っているはずの二人。それなのに見ていて背筋がぞくっとするのはどうしてだろう。
「千景さんは慎重派に見せかけて大胆な作戦を取ることもあるので……こっちがババですね?」
「残念、はずれだよ」
もう何度そんなやりとりを見てきたことか。行ったり来たりし続けるジョーカーが可哀想な気さえしてくる。
「あ、あのー……お二人ともそろそろ……」
「あぁ、ごめんね監督さん。そろそろ終わるはずだから」
「すみません夢中になっちゃって。これが終わったら早速来週のお花見の計画を立てましょう」
そう言ってまたトランプと睨めっこする千景と紬。これは当分終わりそうにない。一緒に花見に来ていたはずの団員たちは、この空気に耐え切れずみんな逃げてしまった。
いっそいづみも逃げてしまえばよかったのだが、このタイマンババ抜きの景品である以上この場を離れるわけにはいかない。『監督と二人でお花見をする権利』が景品だなんてどんなババ抜きだ、と思えば頭痛がしてしまう。
「そんな景品にムキにならなくても……」
「大人数のお花見も楽しくて好きですけれど、静かに花を見るのも楽しいじゃないですか」
「これだと花を見るって言うよりもみんなと騒ぐのが目的になるからね。ちゃんと花を見る花見もしたいだけだよ」
それならいっそ二人で言ったらどうですか、とも言い出せず、いづみは終わりの見えないババ抜き大会の観戦を辞めて正しく花を見始めた。