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61.七月 夏寒し(ストリートアクターズ)
「また雨だ……」
朝起きて一番にカーテンを開けて空模様をチェックする。梅雨がまだ明けないのだから仕方がないと思うし、雨自体は嫌いじゃないのだが、こうも続くと参ってしまう。もうすぐ公演が近いから本当はストリートACTなどの宣伝活動に打って出たいところなのに、こんな天気では人通りそのものが少ないだろう。それではせっかくの宣伝も効果がないし、何より役者の体調を崩させないことに重きを置けば、雨に濡れながらの宣伝などもっての外だった。
せめて地元の店舗などに置かせてもらったフライヤーが目に留まればいいと願いつつ部屋を出る。まだ早朝と言うこともあって起きている団員は少ないだろう。自分も今日は何の予定もないのだから二度寝を決め込んでもいいくらいの時間ではあったが、なんだか目が冴えてしまったのでこのまま起きることにした。
それにしても、布団に潜っているときには気にならなかったがさすがに半袖で出歩くのには今日のような雨の日は肌寒い。一枚何か羽織ればよかった。
温かい飲み物を飲むのには暑すぎるだろうか。そんなことを考えながら談話室の戸を開ける。
すると、こんな朝早くに先客がいた。
「あれ、丞さんにガイさん。おはようございます」
「あぁ、監督か。おはよう」
「おはよう」
珍しい二人だ。と言うのは組み合わせのことではない。寧ろ朝早くにこの二人が揃うこと自体は珍しくなく、よく朝練と称してランニングついでにストリートACTをしていることは知っていた。Aコース、Bコースの他にGコースと言うものがあるらしい。「高遠がああ言ったことを言うとは思っていなかった」と微笑ましげに表情を緩めていたのを思い出す。
「なにしてたんですか、お二人揃って」
「こんな天気だからな。ランニングにも行けないから暇してたんだ」
「俺も高遠と同じだ。雨が降ることはわかっていたが、だからと言って起床時間を遅らせる理由もない。何かしようと思ってここへ来たばかりだ」
「そうでしたか。ここのところ雨ばっかりですもんねぇ」
気が滅入っちゃう、と言いながらキッチンへ足を運ぶ。自分の分を入れるついでに二人にも何か飲むかを尋ねれば、同じものでいいとの返事が返って来たのでコーヒーを三つほど用意する。紬であれば豆を挽いてコーヒーを淹れるのだろうが、生憎そこまでのやる気は持てないのでインスタントで我慢して貰おう。
「はい、どうぞ」
そう言ってコーヒーを置いた弾みにふと思い出す。
「そう言えばこの間見に行った舞台が面白かったんですよね。コーヒーを飲んだらタイムトラベルできるっていう設定の物語で……」
そんな何気ない一言が火種だった。
「あぁ、それなら俺も見た。役者の芝居も――」
「俺も観劇した。話の作り込みもかなりのものだったな」
「あの演出うちでも……」
こうなってしまえばせっかく入れたコーヒーもそっちのけ。
「え、ちょっと待ってくださいよ、丞さん。それだと――」
「いや、この後の展開を考えたら……」
「なるほど。それを踏まえて今度は三人で観劇に行くのはどうだろうか?」
時計の針が一周して他の団員が顔を覗かせても芝居談義は止むことを知らず、肌寒い梅雨の空気もすっかり温められ、反対に扱ったはずのコーヒーはすっかり温くなってしまっていた。