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62.八月 星明かり(生活習慣改善要望ペア)
暗がりの中、ガサゴソと台所から音がする。
まさか泥棒? などと思うことはない。ちょうど行き先が一緒だったのか、階段を降りたあたりでこの人物の後姿を発見している。見つけた瞬間は「あぁそう言えば今日は金曜日か」と思ったくらいだ。
彼の後ろをついていくように歩いて到着した台所。前述の通り照明はついていない。
「……どうして電気つけないんですか、至さん」
いい加減しびれを切らせていづみが問いを投げかける。
すると至は大げさに肩を震わせて、恐々とこちらを振り返った。その動きはあまりにぎこちない。
しかしながら声の主がいづみだとわかって安心したらしい。ほっと息を吐いて胸をなでおろしている。その際の「なんだ監督さんか」という一言はなかなか心外だったがスルーすることにした。
「それで? どうしてそんなコソコソしてるんですか?」
「いや、こんなとこ莇にバレたら……」
「誰にバレたらなんだって?」
今度こそ至の動きが完全に止まった。ぱっと振り返ればそこには美容番長である莇の姿。青筋を立ててこちらをじっと見つめている。その迫力は十代の男の子が出せるものではないぞ、と思いながらいづみは成り行きを見守ることにした。
「……まさかとは思うが至さん、まだ起きてるつもりか?」
「そういう莇だって起きてるじゃん……」
「暑くて目が覚めただけだ。水飲んだら寝る」
「お、俺もそのつもり……」
「じゃあどうしてポテチとコーラなんか握り締めてんだ」
「ギクッ」
「あのな、至さん。公演期間中だったら裏拳っつったけど、公演期間中以外は好き放題していいって意味じゃねぇからな」
「だから裏拳の方が肌へのダメージ半端ないじゃん……」
「言い訳するな。だいたい、やましいことがあるから電気もつけてねぇんだろ」
ストレート負けだな、といづみはジャッジを下す。そもそも試合をする前からわかっていた。圧倒的に至には分がない。
なおも無駄な抵抗を見せる至にいっそのこと感心しながらいづみはコップを取り出して水を飲み始めた。いい機会だ。至さんには生活習慣を見直して貰おう。ゲームは彼の生き甲斐だからそれを奪うつもりは一切ないが、それにしたってあまり肌や体に負荷がかかるような生活はして欲しくないのが本音だ。
そう言えばいまだに電気をつけていないのに今日は手元がよく見える。天気がいい日の続く夏の空には雲一つなかったから、きっと月や星が明るく見えるのだろう。
そう思ったのは至も同じだったらしい。
「莇」
「今度はなんだ?」
「確かに夜更かしをしようとしたのは認める。だけど、電気をつけないのはやましいからじゃない」
「は?」
「ほら来て、監督さんも」
そう言って至は莇といづみを窓際まで手招いた。
「こんなに星がキレイで明るいんだからさ、ちょっとくらい眺めてたいなって思わない?」
「まぁ確かに……」
「わぁ……きれいな空……!」
雲一つない空に散らばる星。深夜ということもあり街の明かりが少ないことも幸いしたのだろう。いつもよりも明るく見える星たちにあっという間に目を奪われた。
「ほら、夜更かしには夜更かしの良さがあるんだって」
「だからって習慣的に夜更かししていい理由にはならねぇぞ」
「痛っ……!」
言い訳を重ねる至の頭を莇が軽く叩く。小さな悲鳴がちょっぴり間抜けで、いづみは思わず噴き出した。