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63.九月 台風(九門、太一)
ざわざわと木々が鳴く。唸るような音を立てる風。宙を舞う葉っぱ。空では雲が足早に動いていると言うのに一向に晴れる気配はない。寧ろ徐々に薄暗さに拍車がかかる様子に街はいつもの色を失っていた。
「この風……まさかヤツが来ると言うのか!」
「バカな! ヤツは異世界の扉へ葬り去ったはず……」
「その扉が開こうとしている。この風はその前触れ……」
「もう! バカなことしてないで中に入りなさい!! 危ないでしょ!?」
中庭で異世界ネタのエチュードで盛り上がる九門と太一に特大の雷が落ちる。
「えー、カントクは風が強いとテンション上がらない?」
「なんかワクワクするって言うか……」
「だからって台風が近づいてるときにやることじゃないでしょ!」
そこまで叱られれば、さすがに二人とも反省したように肩を落とす――いや、反省はしていないらしい。せっかく気分が盛り上がっていたのに、と唇を尖らせている。
「もう、仕方がないな……それじゃあ雰囲気は出ないかもしれないけど、レッスン室で続きする?」
そんないづみの提案に二人はぱっと目を輝かせる。
「いいの!?」
「ありがとう監督先生!」
「カントクには何役してもらおっかなー!」
「ハイハイ! 異世界のお姫様がいいと思う! 俺っちがカッコよくお姫様を助けてモテモテに……」
「お姫様! 確かにカントク可愛いからぴったり! じゃあオレはお姫様を守るナイト役にしようかな」
盛り上がりを見せる二人の後ろ姿に犬のしっぽの幻を見ながら、いづみは「ちょっと軽率だったかな」と不安になる。彼らの世界観を壊さないお姫様をしっかり演じようと気合いを入れれば風の音は気にならなくなっていた。