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65.十一月 旅行(軟派 With 硬派)
いつにも増して眉間のシワが深い十座。その視線の先には何やら字を書き連ねたルーズリーフ。強めの筆圧で書かれたそれをルームメイトに見つからないようにと中庭のテーブルで作業をする後ろ姿に声をかけたのは一成だった。
「ヒョードルっ! こんなところで寒くないの?」
「一成さんか。別に寒くはない。ただこいつを摂津の奴に見られるわけにはいかねぇんで」
ぺらりと十座がルーズリーフを手にとってそれを一成に見せる。それを見て一成は目を輝かせた。
「すっげー! めっちゃ細かく調べてあるじゃん!」
「勝負事だからな。負けるわけにはいかねぇだろ」
「だよねん。それに、やっぱせっかく観光地回るならカントクちゃん一緒の方が楽しいし」
十座が一成に渡したルーズリーフ、それには今度劇団で行く旅先で食べられる菓子がさまざま書き記されていた。お土産や食べ歩き、その土地限定の菓子など事細かに調べているのは何も十座が甘いもの好きだからと言う理由だけではない。
この度の旅行の自由行動において、いづみとともに行動したがる団員があまりにも多かった結果、いづみ争奪戦が実施されることとなったのだ。二人一組のチームを作ってそれぞれが考えてきた旅行プランをプレゼンし、いづみのハートを掴んだチームは彼女とともに自由時間を過ごすことが出来る。
チームはくじ引きと言うこともあり、中には相性が悪い相手とペアになってしまい難航している役者もいた。
このペアも一見すると軟派と硬派という正反対な者が組まされていることもありバランスは悪そうに見えた。が、いざ始まってみればそんなことはまるでない。
「この店、古くから続く名店だ。お取り寄せ出来ねぇ甘味もあって気になってた」
「さっすが! あ、このルート通るならランチはこっちのカレー屋行けるね! SNSで話題になってたフォトスポットにも寄れるし……確かこの交通機関を乗り継げば最短でこっちのエリアにも行けるから――」
「それならこの辺りにはこの店が――」
SNS等の情報を駆使する一成はそれだけでもかなりの戦闘力を持っている。加えて旅行が趣味と言うこともあり、現地の交通機関にはかなり詳しく最適なルートをはじき出すことが出来る。
また十座は、日頃から全国各地の甘味を取り寄せることが趣味のため、お土産はもちろん限定品も詳しい。一成がどのルートを提案しても、そのエリア内にある絶品甘味を紹介することが出来るほどの情報を持っていた。
そして何より――。
「監督、喜んでくれるといいな」
「……だね。よーしっ! そうと決まれば、もう一回このルートに抜けがないかしっかり確認しよ!」
相手に喜んでもらいたいという気持ちが強い二人にかかれば、トップを取るのはそう難しいことではなかった。