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66.十二月 クリスマスナイト(純真ペア)

 街が電飾に彩られ浮かれる季節。もうサンタクロースがプレゼントを持ってきてくれる年齢はとっくに過ぎているのだが、それでもワクワクする気持ちは変わらない。街にあふれるクリスマスソングを鼻歌でなぞりながら、いちゃつくカップルたちは視界から外して寮へ帰る。
 すると、不思議なことが起こった。

『そこの君、どうしたんだい? こんなところで』
「え? さ、くやくん……じゃない、それってチェシャ猫?」

 猫耳のカチューシャに猫のしっぽ。見覚えのある衣装を身に纏った咲也が玄関でいづみを待っていた。
 どうしたのかと聞きたいのはこちらなのにチェシャ猫と言う生き物は何と気まぐれなことか。まったく質問に答えることなくいづみの手をそっと握る。

『まるで夢でも見ているような顔をしているね?』
「え、えっと……だって状況が……」
『それならお茶会に行くといい。きっと全部がわかるはずだよ』
「お茶会ってことは……一〇三号室にいけばいいの?」

 チェシャ猫が導くお茶会と言えば帽子屋のお茶会のことだろう。そして帽子屋と言えば一〇三号室の至だ。まさか至が役でもなくプライベートでお茶会を開いてくれるとは考えにくいが。何せここの所年末進行でげっそりしながら帰ってくるのだから。
 そんないづみの疑問にチェシャ猫は静かに首を振る。

『今日は特別な日だからお茶会も特別なのさ』
「特別なお茶会……?」
『ほら、着いた。王子さまのティーパーティー会場だよ』

 そう言って連れてこられたのは二〇二号室。つまり王子さまと言うのは、といづみが部屋の主の顔を思い浮かべたのと扉が開いたのは同時だった。

『やあ、いらっしゃい。プリンセス』
「フローレンス王子……お、お招きありがとうございます」

 恭しく、のつもりだが実際はぎこちなく礼をするいづみ。その様子がおかしかったのか、咲也と椋はすっかり役の抜けた表情で笑っていた。

「へへ、驚かせちゃいましたよね」
「すみませんカントク。だけどサプライズにしたくって」
「サプライズ?」

 今一つ状況が飲み込めないいづみをクッションに座らせて、二人はお茶会の支度を始める。ティーカップに注がれた紅茶からはふわっと優しいフルーツの香りがした。

「いつもお世話になっているカントクにクリスマスプレゼントです」
「高いものは用意できないから、せめてお茶会をしようって思いついて」
「クリスマスティーとプディングを用意しました。どっちも美味しいのでたくさん食べてくださいね」

 そう言って笑う二人はまるで天使のようで、そう言えばツリーの飾りつけには天使が欠かせないよなぁと思いながらいづみは思い切り二人を抱きしめる。

「ありがとう! すっごく嬉しいよ!」
「あはは! カントク、くすぐったいですよ!」
「えへへ、喜んでもらえてよかったぁ」

 天使みたいな二人に労ってもらえるなんてこんなに幸せなクリスマスはない。その幸せを分け合うように、紅茶もプディングも三人で分け合うことにした。






花の壁