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67.走り抜ける(咲いづ)

「小さい秋って何なんですかね?」
「小さい秋?」

 何か難しそうな顔をして考え込む咲也を見つけて声をかけたいづみ。まさかの返答に思わずオウム返しをしてしまう。

「小さい秋って……童謡の?」
「はい。それが昨日、託児所でみんなと歌ったんですけど、あの歌詞って小さい子どもにはまだ少し難しかったみたいで……」
「あぁ、確かに。もずって言われてもよくわからないもんね……っていうか、私未だにどんな泣き声なのかわからないかも」

 むむむ、と唸りながらいづみは考える。子どもにもわかりやすい小さな秋。それはいったい何なのか。

「うーん……あ、そうだ。秋と言えば……」
「さっき至さんたちにも聞いてみたんです。そしたら『監督さんには聞かない方がいいよ。絶対キノコカレーとか言い出すからって』
「……見抜かれてる」

 キノコカレーの何がいけないのかはよくわからないが、見透かされたことが悔しくて閉口するいづみ。まるで人がカレーのことしか考えていないみたいじゃないか。

「……咲也くん、今から出掛けない?」
「え? 今からですか? どこに?」
「小さい秋を見つけに!」



 そう決めてからは早かった。出掛ける支度を整えたらスニーカーを履いて玄関を飛び出す。まずはスポーツの秋だと走り出すと、柔らかな金木犀の香りが鼻先をくすぐった。

「これも秋らしいね!」
「そうですね!」

 それから少し疲れたのでコンビニに立ち寄ってスポーツドリンクを買った。そこでかぼちゃ味の新商品を発見して、これも小さな秋だと二人揃って購入した。
 そうやって街を探せば探すだけ秋の気配はそこかしこに散らばっていた。この調子なら子どもたちにもいろんな話ができるかもしれない。
 そう思ういづみだったが当の咲也はまた難しい顔をしている。

「どうしたの、咲也くん?」
「あ、いえ……その……じゃあ今度は逆に大きな秋ってなんなのかなぁって」
「大きな秋……」
「小さな秋があちこちにあるのはわかったんですけど、じゃあ大きな秋もあるのかなって気になってしまって……」

 申し訳なさそうに笑う咲也だったが、いづみも同感だった。確かに手のひらサイズに収まる小さな秋はそこかしこにある。では大きい秋とは何なのか。
 そう思ったときにピンとくるものがあったいづみは咲也の手を引いて走り出した。

「わわっ! か、カントク!?」
「わかった! わかっちゃったから早く見に行こう!」
「ちょ、ちょっとカントク! 待ってください!」

 目指す先は紅葉のきれいな公園。一枚一枚は小さな葉っぱでも、集まればあんなに大きくてあんなにきれいなんだと思い出したきっかけは、目の前でふわふわ揺れるきれいな赤色の髪だった。






花の壁