100 titles
68.砂糖菓子(一いづ)
「結婚式もこれで何回目かな……」
長年の友人の一人が結婚し式から帰ったいづみは、なんとなくせっかくセットした髪を戻してしまうのがもったいない気がして、しかしそんな姿を見られるのは恥ずかしいからとバルコニーで独り言ちる。
小さなテーブルに広げたのは引き出物。その中にコロコロとした可愛らしい砂糖菓子の姿を見つけた。
白、桃色、黄緑、黄色……。色とりどりの金平糖だ。そう言えば最近、バウムクーヘンと同じくらいこの砂糖菓子を目にするなと思いながら、袋に包まれたそれをまじまじと眺める。丸くて柔らかい角がたったそれは、まるで星のように見えて、誰もいないのをいいことに芽生えた小さな遊び心を無視することなくそれに従う。
「……星の砂さん、どうか私の願いを聞いてくれますか?」
夏組の演目、花の王子さまの再演に向けた稽古期間のせいだろう。袋の中で転がるそれが星の砂のように見えて、つい叶うはずもないのに願い事を口にした。
「星の国の王子さまと……あんな風に幸せになれたらなって思うんです」
「どんな風に?」
小さな声で呟いた大きな願いに思わぬ返答が聞こえた。寄りにもよってこのタイミングで? と信じられない、いや信じたくない一心でいづみは金平糖から視線を動かさない。
それを面白がるようにくるりといづみの目の前に躍り出たお調子者に、いづみは恐々と問いかけた。
「…………一成くん、いつからそこに?」
「カントクちゃんが金平糖に話しかけ始めたとこらへんからかな?」
初めからじゃないか。そう言ってやりたいのに声が出ないのは聞かれてしまった願いのせい。こんないかにも結婚式帰りと言う格好をして、引き出物を眺めながら、『あんな風に幸せに』だなんて、誰がどう見ても結婚願望全開な女性そのものだろう。
「あの……忘れて貰えたりは……」
「え、いいじゃん、いいじゃん! 恋バナしよ!」
「で、でも……本人が目の前に……」
「本人? カントクちゃんはリンクルがいいんじゃないの?」
オレは星の国の王子じゃないしね、と笑う一成のなんと底意地の悪いことか。にやにやと口角を上げながら、金平糖を取り上げて、袋を振って遊び始めた。そのカサカサ鳴る音が答えを急かしているようで居心地が悪い。
わかっているくせに。自分が幸せになりたいのは星の国の王子様とではなくて――。
「……りくんが、いい」
「ふふ、聞こえないよん」
「もー……いじわる。わかってて聞いてるでしょ」
「まぁねん。カントクちゃんのことならわかってるつもりだよん。だけど、意地悪くらい言わせてよ」
袋から出した一粒の金平糖。それをいづみの唇に押し当てて一成は嫉妬の混ざった笑顔を見せる。
「願いを叶えるのは星の砂でも金平糖でもなくて、オレがよかったのに」