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70.二人きりの部屋(千いづ)

 牢屋のようだと思ったあの部屋は、今思えば『開かずの間』みたいなものだったんだなといづみは思い出す。
 過去に密や東に閉じ込められたあの部屋。閉じ込められたときは途方に暮れてしまうが、ゆっくり話をするのには最適で、あの部屋に閉じ込められたからこそ距離を縮められたあの部屋。
 心のどこかで『開かずの間』と千景のアジトが似ていると思ったからこそ、団員たちに真相を尋ねられた時に『開かずの間』に閉じ込められたという嘘が口を突いたのだろう。
 もしかしたら、千景があの部屋に自分を閉じ込めなければ、七不思議の力で結局無理やり二人きりにさせられたんじゃないだろうか。

「……あんまりじっと見られると気が散るんだけど」
「いや、なんだか懐かしいなって」
「なにが?」
「この状況が」

 場所は総監督室だが状況は同じだ。二人きりの部屋でずっと千景がパソコンをいじっていて、相手にして貰えないいづみはソファーで時間を潰している。

「仕方がないだろ。本当は部屋でしたいんだけど、茅ヶ崎が実況中なんだ」
「それはさっきも聞きましたよ。お忙しいのもわかってるから机を貸してるんですけど……」
「けど?」

 ようやくパソコンから顔を上げた千景が意地悪く笑う。結局全部お見通しなのだろう。それが悔しいけれど、惚れた方が負けとはよく言ったもので。

「あの春の私は総監督でしたが、この春の私は千景さんの恋人でもあるんですから、もう少しくらい構ってほしいなって」

 そう言い終わるか言い終わらないか、そんなタイミングで千景がパソコンを畳んでいづみのすぐそばに腰を下ろす。

 その言葉を待っていたと言わんばかりの笑顔に絆されて、これ以上の文句を言うのはよそうと閉じた唇に待ちに待った彼からのキスが降って来た。






花の壁