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74.嘘だって(莇いづ)

「ヅラだろ」
「……よくわかったね?」
「いや、かぶり方雑過ぎてバレバレ」
「うっ……」

 そんな唸り声が上がる談話室。ベリーショートのかつらを被ったいづみと、それを見て呆れ顔の莇の二人は、次の瞬間場所を変えるために動き出した。

「あ、莇くん? 怒ってる?」
「怒ってねぇ。ただどうせ被るならちゃんとやろうぜ」

 そう言ってぐいぐいといづみの手を引っ張る莇。普段なら女性と手を繋ぐことに抵抗を見せるはずの莇だったが、今それをしないのは別のスイッチが入っているから。メイクアップアーティストを目指す彼のメイクスイッチが一度入れば、あとは目の前の人物が輝けるようにと化粧を施すことで頭がいっぱいになる。手を繋ぐなんて破廉恥だ、となどということは気にならなくなるのだ。



「ほら、ちゃんとすればそれっぽく見えんだろ」
「わぁ! すごい! 本当の髪の毛みたい!」

 丁寧に髪をまとめ整えられたかつらはしっかりといづみの頭に馴染んだ。これならだれが見てもいづみが髪を切ったように見えるだろう。

「つーか、どうしたんだよ。そんなヅラ被って」
「ちょっとしたいたずら? みたいな」
「いたずらぁ?」
「うん。ひどいんだよ。この間みんなとお酒飲んでたら『失恋して髪切ったとかそういう女子っぽいエピソード持ってなさそう』『カレーと結婚してそう』とかってからかわれてね。だから仕返しに『失恋して髪切りました』ドッキリを……」
「やめとけ。あんたの芝居じゃバレるだろ」
「うっ……」
「だいたい、」
「うん?」
「失恋以前に今、その、こっこ、恋とか、してんのかよ」

 ヘアメイクを終えすっかりただの男子高校生に戻った莇がいづみに問う。するといづみは「確かにしばらくご無沙汰だけど」と唇を尖らせた。

 そのことになぜ自分がほっとしてしまったのか、というのは莇にはまだまだ難しい問題だった。






花の壁