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75.椅子(咲いづ)
実は自分が知っていることなんてほんの僅かだったんだ、とここへ来てよく思う。
例えば今だってそう。年がら年中何かしらのお祭り騒ぎが起こるこのMANKAI寮。今日はきっかけが何だったのかは知らないが椅子取りゲームが行われている。
咲也はこのゲームが苦手だった。たとえゲームとは言え、人を押しのけてまで自分の居場所を得ようとするのが性分に合わない。というよりは、ゲームであっても自分に居場所がないことを認識したくなかったのかもしれない。加えて、その席に座りたがっている人がいるのなら譲ってあげようという気持ちがどうしても勝ってしまうのだ。
だけど、これだけは譲れない。
そう思うのと同時に音が止む。それを合図に人数よりも少ない椅子を目掛けて腰を下ろす。その隣には最愛の女性がいた。
そう。自分が知っていたことはほんの少しだけ。ここへ来たばかりの頃は役に固執する自分に驚いたというのに、今となってはもっともっと譲れないものが増えてしまっている。
そんな自分が嫌いじゃないのもまた、世紀の大発見なんだと思う。