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78.イミテーション(天いづ)

 テレビの向こうで偽物の恋模様が繰り広げられる。その日の放送が終わればSNSでは瞬く間にその話題が溢れかえった。
 キュンとした、ドキッとした、言われてみたい、気持ちがわかる……。
 日頃SNSの類を利用しない天馬の目にその言葉の羅列が止まることはない。
 しかし、学校へ行けば嫌でも耳に入ってくる。直接天馬に話しかけるクラスメイトはほとんどいないが、それでも教室の隅で自分が出演した作品の名前が聞こえればつい耳を傾けてしまうものだ。そして聞こえてくるのは先ほどのような賛辞の言葉。
 それが実のところ天馬には辛かった。
 恋をしたことのない自分が演じる偽物の恋。それに心動かされたのだという人々の顔。
 最初のうちは、経験がないことでもリアルに見せることが出来る自分の演技はやはり優れているのだと得意になっていた。
 しかしそれが何作も続けば徐々に罪悪感が胸を蝕む。彼女たちが感動したと涙する恋物語は、恋を知らない人間が想像で補って演じたものに過ぎないからだ。

 そんな昔の話を思い出しながら天馬は台本から顔を上げる。劇団に入ってからどれだけ季節が廻っただろうか。その中で手に入れた、焼けるように熱い恋心を確かめるようにして胸に手を当て息を吐く。
 今ならわかる。本物がどんなものなのか。だから今度はこれを役に織り込んでいかなければならない。そうやってよくなった演技を見れば、きっと彼女は花が咲いたように笑うから。
 いつか自分の恋もハッピーエンドを迎えられたらいいと願いながら、天馬は与えられた役をかぶった。







花の壁