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80.爪先(莇いづ)
ギリギリのギリギリ、本当に際のところまでを攻めていく。手を繋ぐことと婚約が同義だとする彼が、精一杯見せてくれた歩み寄り。せっかくお付き合いをするのならもう少し寄り添っていたいのだと甘えた結果、爪の先を触れさせることは許して貰えた。
「……それにしても、なんで爪?」
せめて指とか、おでことか、肩にもたれ掛かるとか。いろいろやりようはある気がするのに、莇はどうしても爪先以上を許してはくれなかった。
不満はない。本当は人肌恋しい冬だからもっと引っ付きたいだとか、そんな破廉恥な思いは一切ない。たとえ爪先だけだとしても彼にとっては相当な覚悟が必要なことで、それを許して貰えたことに得も言われぬほど愛を感じる。
しかしどうして爪なのだろう。そんな疑問が思わず口を突く。
すると、その言葉を真剣に受け止めた彼はうっと唸りながら顔を赤くした。別にはぐらかしてしまえばいいのに、義理人情に意外と熱いところのある彼はなるべくいづみからの問いには誠意をもって答えようとする。
そんな彼が顔を赤くして答えた真実があまりにも見た目とのギャップがあって、またそんなところにグッと来てしまうのだ。
――爪先が一番心臓から遠いから……音がバレねぇと思って