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83.ベッド(万いづ)
愛しい寝顔、と聞いてこんな顔は思い浮かべないなと万里は思う。
寒さで起きるのが辛い冬の朝、その隣には健やかに眠る恋人の寝顔。ぽっかり口が開いたその表情はなんとも間抜けで、それなのにどうしようもなく愛しい。想像していたものとは随分違うのに、湧いてくる愛しさは想像以上。
それがどうにもズルい気がして万里はそっと彼女の唇を指でなぞる。キレイな円を描くその開いた口はどうやらカレーを食べるためにあるらしい。むにゃむにゃと控えめに唇が上下し、それに続いて「まだ食べたりない……」などと小さな声が聞こえてきた。
「夢の中までカレーかよ……」
同棲を始めた最初の朝。二人で眠るためのベッドで万里は、たとえ色気がなくても寝顔が間抜けでも、それでもこんなに愛しいのだからお手上げだと声を殺して笑った。
(84.に続きます)