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88.アルバム(さきょいづ)
「ん……っと、あと、もう少し……」
「『もう少し』じゃねぇ。台を使えばいいだろうが」
ポコッと頭を叩かれた。力はまったく込められていないのに反射的に「痛い」と言えば、「嘘吐くな」と呆れた物言いが頭上から降ってくる。
視線を上げれば、いづみでは全く手の届かなかった棚の高いところにあったアルバムを左京が難なく手にしていた。
「これか?」
「わあ! ありがとうございます! さすが左京さん!」
「それにしてもどうしたんだ、急に」
「いやー、この夏に初代の方々の様子を見たせいか、新生立ち上げの頃を振り返りたくなりまして」
すっかり夏も終わった秋の入り口。そんなことを口にするいづみは愛おしそうにアルバムをめくり始めた。
「……懐かしいな」
「つい最近のことだと思ってたんですけどね。こうして見ると随分昔に感じちゃうなぁ」
「この写真は……」
「あぁ、これは夏組と――」
左京が借金取りとして劇団に関わっていた時期と、役者として関わり始めた時期、そして二回、三回と公演を重ねていった時期。そのどれもに濃い思い出が詰まっていて、一枚ページをめくっては思い出を語るその繰り返しを止めることが出来なかった。
「この時はもう東さんが大変で……」
「……」
「左京さん……?」
「こうして見ると、時の流れってモンの威力を見せつけられてるような気になっちまう」
「え?」
「あんなに小さかったガキがここにいるアイツらを……俺たちを救っちまったんだ」
左京がぱらりとページを戻す。それにつられるようにしていづみの思考もまた過去を辿った。素人ばっかりの春組、自己主張ばかりで騒がしい夏組、過去が負い目でまとまらない冬組。そして地で悪役を行く秋組。どの組も問題を抱えていて、だけどそれを自分が救ったといづみは思っていなかった。それぞれがそれぞれに問題と向き合ったから。自分に出来たのはほんのちょっとの手助けだけだ。
だからいづみは胸を張る。
「それなら私だってみんなに、左京さんにたくさん救われました。みんなは私の誇りです」
「……アイツらならともかく俺が、か?」
「はい。左京さんがこの場所を愛してくれたから、だから厳しいこともたくさん言ってくれたんでしょう?」
左京さんがいなかったらこの場所はなかったんですよ、といづみが笑えば、左京は生意気だと言ってその頭をぐしゃぐしゃに撫でまわした。
「もー、髪の毛ぐちゃぐちゃ……」
「ふっ、何だったら写真に撮ってアルバムに貼るか?」
「結構です」
そんなじゃれ合いを楽しんでいるうちに部屋に差し込む陽の光がオレンジ色へと変わって来た。秋の夕暮れは美しいのに短くて切ない。どこかしんみりとした気持ちになってしまう。
それを振り払うようにして、二人はまだ見ぬ未来へ思いを馳せた。
「それにしてもアルバムも増えましたね」
「これからも増えてくだろ。何かにつけて写真を撮りたがる連中ばっかりだからな」
「ふふ、きっとそうですね。私もたくさん写真に撮ろっと」
そこで会話が不自然に途切れた。互いが何かを言いたくて、だかそれを切り出せないでいる。そんな空気を互いが察していた。
「……ねぇ、左京さん」
先に痺れを切らせたのはいづみだった。
「アルバムには挟まない、私だけの写真が欲しいんですけど」
もごもごとねだるいづみに向かって、左京は「奇遇だな」とはにかんでカメラアプリを立ち上げた。