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90.満員電車(臣いづ)(ACT2)

「うわぁ……なかなか混んでるね……」
「ハハッ、監督はこの時間に電車に乗ること少ないよな」

 葉星大学にある資料を劇団で使わせてもらうからその挨拶に、といづみが大学訪問をすることになった際、その付き添いに名乗りを上げたのは臣だった。
 後期授業も始まり残り僅かな大学生活。四年生の秋ともなればそれほど大学へ通うことも多くはない。だからこそいづみと大学まで足を運ぶと言う機会が下手をすれば二度とないかもしれないという思いは腹の底に隠したまま、いう思いは腹の底に隠したまま、朝の通勤通学ラッシュにいづみを一人には出来ないだろうとボディーガードを買って出た。
 実のところ、臣は朝の電車に乗るのはあまり好きではなかった。ぎゅうぎゅうと寿司詰めにされる電車の居心地の悪さと言ったら。自分の体は場所を取って周囲の迷惑になっている気がしてしまうのだ。
 そしてやはり今日もそうだな、と肩身の狭い思いをしながら奥のドア付近に陣取りつつ周囲を見る。縦にも横にも幅的にも大きい自分がここにいることが迷惑な気がしてしまった。
 そう委縮した瞬間、ガタンッと一際大きく電車が揺れた。幸い体幹で持ちこたえられる程度の揺れだったが、いづみがバランスを崩して倒れそうになる。それを体で受け止めると、臣の胸板に顔を打ち付けたいづみがガバッと顔を上げた。

「ご、ごめんね!」
「いや、俺は大丈夫。監督こそ大丈夫か?」
「うん、臣くんのおかげ。助かっちゃった」

 そう言って笑ういづみはいつも通りなのに、受け止めた体はあまりに華奢で。

「もう少し先のカーブ、ちょっと急だからあそこもちょっと揺れるんだ」
「そうなの?」
「あぁ。だから掴まってくれていいからな」

 手すりも掴めないほどの満員電車も、大きなこの体のこともなんだか好きになれそうだ。






花の壁