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36.好きって言って!(ますいづ)

「ゲームしたい」
「……ゲーム?」

 春の陽気が気持ちよく、せっかくだから布団でも干そうと布団を抱えて歩いていると、大学のオリエンテーションを終えたらしい真澄が帰ってきてその役を代わってくれた。
 そのお礼に何か、と自分に出来る範囲のこと(そう、常識的な範囲でのこと)はないかを尋ねてみると、先ほどの回答が返って来た。
 ただ、この返答が意外だった。ゲーマーの至を理解不能だという目で見ている彼がゲームに誘ってくるとはどういう風の吹き回しなのだろう。てっきりデートだのなんだのと一回は言ってくるだろうから、それをいなす準備は出来ていたのに。
 それとも何か思惑が、まさかポッキーゲームでは……と悩んでいると、沈黙を肯定と捉えたらしい真澄が一方的にゲームをスタートさせた。

「『ピザ』って十回言って?」
「あ、ゲームってそう言うヤツか!」

 懐かしいのと同時に、変なゲームではなかったことに安心して胸をなでおろす。すでに手垢がつくほどやりつくされたゲームだから当然答えも知っている。しかし、人とコミュニケーションを取るようなゲームを覚えて来た真澄のことを嬉しく思うから無碍にはしたくない。もしかしたら大学の同級生とのやり取りの中でこんなゲームを覚えたのかもしれないのだから全力で乗っかることにした。

「――……ピザ、ピザ!」
「じゃあ、ここは?」
「肘!」
「ふふ、正解。はしゃいでるアンタ可愛い……」
「はいはい。それより、ゲームってこれだけ? あんまりお礼になってないような」
「じゃあ次は『好き』って十回言って?」
「えっと、好き、好き、好き……」

 そんなお題あったかな、と思いながらも指定されたワードを口ずさむ。自分の知らないうちに十回ゲームもレパートリーが増えたのかもしれない。指折り数えながら、好きと唱え続ける。

「――……好き、好き!」
「じゃあ俺のことは?」

 ここでやっと彼の思惑がわかった。ピザは前振り。ただ彼は思い人に好きと言わせたいだけだった。

「……その手には乗らないからね」
「じゃあ次」
「え!? まだ続くの?」
「この漢字の読み方は?」
「どこから出したの、そのメモ。えーっと、どれどれ……」

 渡されたメモを反射的に受け取る。そこには『鋤』という文字。日頃目にする漢字ではないが、たまたま読み方は知っていた。

「えっと、確か『す』……って! コラ!」

 まただ、と頭を抱えた。『鋤=スキ』。そうまでして好きと言わせたいのか。ここまで来ると呆れを通り越して感心してしまう。よくもまあ、あの手この手を思いついたものだ。

「あのね、真澄くん……」
「じゃあ次。しりとり」
「だから……」
「リス」
「……すいか」

 こうなったらてこでも動かないだろう。諦めてしりとりに付き合うことにする。どこかで適当に『ん』のつく言葉で終わらせてしまえばいい。ただ、『す』で始まって『ん』で終わる言葉がとっさには出てこなかった――『す』で始まる言葉?

「粕」
「す、するめ」
「メス」
「す、す……スタジオ!」
「オス」
「もー! さっきから『す』ばっかり!」

 彼が何を言わせたいのかわかった上で、いづみは仕返しだと「すす(煤)」と返す。

 すると真澄は春の日差しを受け、うっとりとした表情でいづみに「好き」だと言った。





花の壁