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94.指切りしたでしょ(密いづ)
晩秋の冷えた空気の中、最終電車を降りたいづみは小さく溜め息を吐く。
他の劇団の手伝いを終え、打ち上げに参加をさせて貰った帰り。本当は恋人に迎えに来てもらう約束をしていたのだが、思ったよりも遅くなりそうだからと打ち上げの途中にLIMEで「迎えはいらない」と約束を反故にした。それを選んだのは自分なのに、やっぱり少しばかり寂しいな、と肌寒くなってきた夜の風を浴びる。
彼のことだ。きっともう寝てしまっただろう。寝坊助な彼を気遣って迎えはいらないと言ったのは自分で、その判断に後悔もないのだが、それでもやっぱり一人で歩く夜の道は僅かに心細い。
迎えに来て、とわがままを言えばよかっただろうか。いや、どちらにしても彼のことだから寝てしまっただろう……と感情を浮き沈みさせながら改札をくぐる。
するとそこには、たった今顔を思い浮かべた寝坊助がいた。
「よく起きてたね、密さん……」
「だってしたでしょ、指切り。迎えに行くまで起きてるって」
指切られたくないから迎えに来た、と表情を動かさずに言う密。そんな彼に心が緩んで、心がとてもくすぐったい。
本当に指を切るわけないってわかってるくせに。
「ふふ、ありがとう。それじゃ、帰ろうか」
「うん」
すっかり寂しくなくなった帰り道。お礼にコンビニでマシュマロでも買って帰ろうかと思案していると、するりと指を絡め捕られる。
「指、切られずに済んだから。手繋いで帰ろ」
そう言って表情を緩める密が愛しくて、やっぱりマシュマロを買って帰ろうと心に決めた。