盗撮ダメ、絶対

こそ、と、普段聞いているよりも数段大きな音がコードを伝って聞こえた。
彼女は普段、部屋の中で大きな音は立てない。むしろ、静かすぎて盗聴器を置いている意味があるのか疑問に思うくらいである。

そんな彼女だから、マイクが拾ったその音はあまりに不自然だった。なにかあったのかと不審に思い、仕事を中断して観葉植物の根元に設置してある監視カメラの映像を画面に映す。

「なんだ、これ」

彼女の訝しむ声が部屋に響いた。画面にはドアッブで映るかわいらしい顔、ああ、今日も完璧だなマイダーリン、ではなく!

「ば、ばれた………?」

サア、と血の気が引く感覚と共に、頭の方はぐるくるとオーバーヒートしそうなほどの熱さが回数を焦がす。顰められた眉に、完全に自分の犯行が表に出てしまったことを悟った。

この盗聴器や監視カメラは、もちろん彼女の許可を得て設置したものではない。こんなものを開けっぴろに仕掛ける本人に明かす馬鹿はいないし、恋人ともあれば尚更だろう。
彼女に重くて余裕のない男だとは思われたくなかった。それにここが地獄で法も何もあったものではないとはいえ、愛おしい人に犯罪者扱いされるのは避けたい。から、うちの最新型の機種の中でも特に小さく、隠密に向いたものを仕掛けたのに。

さすがは俺の恋人と言うべきか、悲しいことに彼女の観察眼は人一倍である。普段であれば聡明な彼女を誇らしく思うが、今の俺には全くそんな余裕はなかった。早く、早くこの状況をどうにかしなければ。地獄のテクノロジーの頂点とも言えるこの脳を必死に働かせる。

「そうだ、あれを赤の他人が仕掛けたことにして、俺が処分し彼女を守るよう振る舞えば……」
『これヴォックステックのやつだ』
「終わった」

ヴォックステック社の製品は販売後も全て社長である俺が管理できるようになっており、どこでどう使われているのかが筒抜けになる。
彼女はそれを知っているから、他人のせいにすれば俺は恋人に迫る危険を見逃したことになってしまうのだった。自慢げにぺらぺらと喋る過去の自分をぶん殴ってやりたい。

「クソ、こうなったら洗脳で彼女の記憶を飛ばすしか……」

ばちばちと辺りに火花が散り始めている。謝ったとて彼女の俺への不審感は満えることはないだろう。彼女が別れを告げたら?彼女に嫌われたら?俺は一体どうしたらいい!

彼女に洗脳をかけたことは今まで一度もなかった。恋人には誠実にいたいという気持ちもあったし、彼女の本心から俺を求めて欲しかったからだ。しかしこの際、もう仕方がないだろう。今から彼女の元へ行って、なにか言われる前に早急に…

『やほ〜ヴォックス、見てる?』
「は、」

場に不釣り合いな、気の抜けた声が響いた。にこ、と地獄史上最高に愛らしい笑みがカメラのレンズへ向けられている。
ゆるく振られる手はまさしく見慣れた彼女の動作に違いなく、きゅるきゅると忙しく働いていた熱を冷ますためのファンが稼働を弱めるのが分かった。

『お仕事中かな?最近全然帰ってこないから心配だよ。たまには帰ってちゃんとベッドで寝てよね』
「……………」
『カメラと録音するやつ、テレビの前に置いとくね。せっかくだからたまに話しかけるよ!またね〜』

しん、と部屋が静寂に包まれる。いつものように静かにソファの上へと戻った彼女は、目の前に置かれているはずのカメラを気にも止めずタブレットを弄り始めた。ちらりと映る画面を見るに、どうやら漫画を読んでいるようである。

「………え?」

いまいち状況が飲み込めない。ぼうっとして働かない己の頭を蚊帳の外に、とりあえず一連の映像を複製して厳重に保管するべく、流れるようにデータファイルを開いた。

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