なんでこんな人がすきなんだろう、と常々不思議に思う。いいや、正確に言えば彼は人ではなく、うちの会社が長年世間からひた隠しにしているエイリアンであった。そんなよくわからない同僚になぜか恋をして、その上恋人なんていう名前のつく関係になるなんて、数年前の私には想像もつかなかっただろう。
思い切り人とは違う見た目で、生態もよくわからず、特に優しいわけでもない上、言動は(人間でいう)下半身に脳が乗っ取られているとしか思えない。一体どこに好きになる要素があるのだろう。
そんなことを雑談ついでに彼に零せば、「それ本人に言っちゃう?」とため息をつかれた。ぴか、と彼の会話するための器官らしき場所が光る。
「だって本当のことじゃないですか」
「ほんっと失礼だな!下のお口はいつも素直なクセに」
「まさにそういうところですよ!」
大変失礼なのはそちらの方である。ちゃっかりするっと太ももの方へ伸びる触手をぺしんと叩けば、わざとらしく声が上がった。
「だって本当のことジャン?」
これ見よがしに同じセリフを使うのは、ひとを傷つけるのが大好きな彼らしい。付き合うのも疲れてきて、はいはいなんて流してしまえば、彼はつまらなそうに頬杖をついた。顔がないのにここまで表情豊かなのはなぜなのだろう。
と、話が逸れてしまったが、私がこの話題を彼に振ったのには理由があった。問題を解決するための策はもう既に頭の中に入っている。
「ということで、マイクさんが私の頭の中を覗いてくれれば、私にも分からないその理由が分かるのではないかと!私、レーガンにも引けを取らない天才じゃないですか?」
「馬鹿と天才は紙一重って言われるが、まさに今
俺っちはそれを身をもって理解したよ」
よく考えてみれば、私が彼を好きなのもよく分からないが、彼が私を選んだこともよく分からない。
冷静に俯瞰して見れば、多分性行為ができれば誰でも良かったのだろうな、とは思うのだけれど、それを正としてしまうのは恋人としてかなり寂しい。
しかし、それはそれとして、この関係が体目的では悲しいと思ってしまう以上、理由は分からずとも私が彼のことを好きだというのは明白であった。
だからこそ、理由が見つからないのが不思議なのである。
「あんた、羞恥心ってやつをママのお腹ン中に置いてきたのか?自ら見て欲しいなんて言うやつなかなかいないぞ」
「恥ずかしいといえばまあそうですけど、それより気になるんですよ」
ぺたん、と彼の触手が頭の上に乗る。この能力が今対象が考えていることしか読み取れないのか、無意識下のことまでも覗けてしまうのかは分からないけれど、今回はそこを明らかにするきっかけになるかもしれない。私は下っ端だけれども、一応はコグニート社の研究員の一人なのである。
「研究バカが」
「読めました?」
「ア〜〜〜、ウン、マア」
「え!なんででした?教えてください」
「………」
きら、とまるい目がこちらを見上げている。頭の弱いこの恋人は、バカの考えたバカみたいな方法を俺っちに強制させたが、思いの外それは脳内を見られる側の彼女ではなく、見る側の俺っちにダメージを与えていた。
「ねえ、マイクさん?聞いてます?」
「……聞いてる」
「じゃあ教えてください」
「.................ナ〜イショッ」
「なんで!?それじゃあ意味ないじゃないですか!」
わしゃ、と彼女の髪を撫で付けてやる。怒ってわあわあ騒いでいても、その感触には若干の嬉しさを滲ませるこいつは、びっくりするほど素直な人間だ。頼りない拳でなんども俺っちの頭を叩いているが、痛くも痒くもない。
あえて頭を覗かなくとも分かるその好意だったが、きちんと聞いてみればどうだ。
『マイクさんに撫でられるのすきだなあ。優しくてきもちい』
『はぐらかし方腹立つけどかわいいな…すき…』
なんとこの女、俺っちの一挙手一投足にキュンキュンしちゃっているようなのである。俺っちのこと好きすぎだろ。
逆にこちらが恥ずかしくなってしまうようなその数々を、本人にそのまま伝えるのは少々憚られるし、揶揄おうにも恥知らずのこいつの場合、あまり動揺せず「そうですけど」などと抜かす可能性が高い。というか、彼女が知りたがっていた根本的なところは正直読み取れなかったし。
「そうだなァ、あーっと、俺っちのイケメンフェイスが好きだってよ。あと超絶技巧テク」
「それだけはないです!そもそもマイクさん顔ないじゃないですか。イケメンかどうかなんか分かりません」
「ハ!?俺っちのこの美貌が分からないってのか?こんなイイ男捕まえといてぇ?」
「重っ、のしかからないでください!」
彼女の頭を肘置きにしてもたれ掛かる。文句を言い続ける彼女に、しー、と囁いてやれば、素直に黙り込むのだから扱いやすいものだ。きょとんとこちらを見上げる彼女に、そうそう、と思い出したように言葉を続ける。
「俺っちはなア、ずうっと適当に選んだ女に構ってられるほど暇じゃ無いんだよ」
「…え」
「だからア、勝手に想像して寂しがんなっての!これでもやさし〜くしてやってる方だろ?」
「………そこも見たんですか…」
「そりやあ、選んで一部分だけ見るなんて無理な話だぜ?おつむが足りてなかったなセクシーちゃん」
実を言えばちらっと片隅に聞こえただけだが、それこそ彼女の本心であろう。恐らくは彼女の提案がなければ知り得なかったであろう情報を手に入れられたのは幸運だった。
俺っちが人間の雌なら誰でも隣に置くような単純な男だと思われるのは癪である。間違いではないけど。
「ま、セックスはできんなら誰とでもするけどな」
「……それを恋人に言いますか?」
「じゃあ俺っちが他ンとこ行かないようにしっかり楽しませてくれよ」
ギロ、と睨まれる視線でさえカワイイものだ。今一度触手を脚に寄せれば、今度はお咎め無くされるがままになっている。気分よく、自分のものとはまるで違う唇に口づける。他の人間には聞こえていない声で、先程と同じような熱い言葉が漏れ出てきた。
「で、そのまま雪崩れ込んでヤリまくりよ!今まで普通にやってたのが惜しいくらい読心プレイに盛り上がっちまってさあ、マジで最高だったな」
「その話別に聞きたくなかった。特に最後のとこ
ろ!」
「そんなこと言うなよレーガン。俺っちの特大惚気聞く機会なんてなかなか無いぜ?」
「はあ…ていうか、私はあの子がそこまで自分の感情に疑問を抱いておいて、洗脳の可能性に気付かないところがすごく心配だよ」
「…ああ、たしかにな。何年この会社に勤めてんだってハナシ」
「……まさか本当に洗脳してないよね?」
「まさか!本能レベルで俺っちのこと好きってことだろ。それに、もし俺っちが洗脳してたらもっとドエロい淫乱女にしてる」
「ほんとアンタってサイテー」