お揃い三つ編み

「……上手くできないなあ」

鏡の前で悪戦苦闘すること三十分。彼女はじいっと鏡の中の自分と睨めっこをして、途方に暮れていました。眉間に皺を寄せる彼女の手元には、いくつかのヘアピンと何度か使用して少し伸びてしまっている小さめのゴムが散らばっています。鏡越しに見える彼女のしょんぼりとした表情が愛らしくて、思わず溜息が漏れてしまいそうです。

今、私は天井裏からこっそりと彼女の努力を見守っていました。毎晩ヘアケアと称して触らせて頂いているさらさらの髪は、彼女自身の手によって歪に飾られています。所々くしゃっとしている部分はあるものの、三つ編みをしているのだろうと推測できました。

私からすれば不器用ながら一生懸命に手を動かす彼女の姿がありありと想像できるいとおしい三つ編みだと思うのですが、彼女はそれでは納得がいかないようで、何度も解いてやり直してを繰り返しています。ああ、またゴムを取って編み直していますね…もう少しキツめに編んでいけば綺麗に結べるのですが。

「……やっぱできない…………」

暫くして、ばたん、と彼女が机に突っ伏す音がしました。頑張って手を動かしていたせいで疲れたのか、今回は途中で諦めてしまったようです。普段より少し癖のついた髪が肩に落ちています。

そんな彼女に対して私といえば、さっと天井裏から降りて上手くできるようになるコツを教えてあげれば良いものを、なかなかその勇気が出ずにかれこれ三十分以上、彼女の練習を覗き見してしまっています。いえ、もしかしたら私が口を挟んだら不快な思いをさせてしまうかもしれませんし、何より必死で頑張っている彼女の姿が愛らしくて、もう少しだけその様子を観察していたい…!

「あーあ、ゴム伸びちゃった…」

彼女の動きと呼応して、不恰好な三つ編みが揺れています。不貞腐れたような表情でさえ可愛くて、こんな場所からこっそり見ていなければすぐにでもあやしてあげたい気持ちにさせられます。うう、でもここで下に降りたらなんて言われるでしょうか。ずっと見ていたことを責められるかもしれません。やはり息を潜めてじっと見守るしか、

「マヨイくんとおそろいにしたかったのになあ」
「えっ」




するすると綺麗に編まれていく様子はまるで魔法みたいだ。一体なにが起きているのか、不器用な私にはさっぱりだけれども、マヨイくんは所謂編み込みというやつをやってくれているようである。

複雑で難しそうなのに、私と違ってものすごく器用なマヨイくんはいとも簡単にそれを完成してみせた。普通の三つ編みすら満足にできないのが恥ずかしいばかりである。

「マヨイくん、すごいね…!めちゃくちゃ綺麗にできてる!」
「い、いえ、そんな…慣れてるだけですよ」

少しだけ気まずそうに目を逸らす彼の肩で、紫色の髪が揺れる。マヨイくんとおそろいにしたくて始めた練習であったけど、まさか本人にやってもらえるとは思っていなかった。

いつのまにか部屋にいたマヨイくんから「あのう、もしよろしければ私がやりましょうか…?」と声をかけられたときはびっくりしたけれど、お言葉に甘えてやってもらって良かったと思う。さっきよりも何段階も可愛くなった髪は、解くのが勿体無いくらい素敵な仕上がりになっていた。嬉しくて、ついすりすりと編み目を指でなぞってしまう。

「ああ、待ってください。もう少しだけ」
「?なに?」

マヨイくんはそう言うと、どこからともなく彼がいつも使っている黒いリボンを取り出した。それを三つ編みを止めているゴムの上から、慎重に蝶々結びをしていく。

「わあ、マヨイくんとほんとのおそろいだ…!」
「ふふふ、よく似合ってますよぉ」

おそろいにしたかったという理由は話していないはずなのに、何故かバレてしまっていたようである。マヨイくんがやってくれて、しかも自分が普段使っているリボンも付けてくれたとなれば、これはいよいよ解けなくなってきた。

「それ、差し上げますよ」
「えっ、いやそんな、悪いよ」
「代えがいくつかあるので大丈夫ですよ。あっ、もし嫌ならすぐに捨ててもらって構わないのですけど!」
「ううん、嫌じゃないよ。嬉しい」

嫌なわけがない。嬉しさが隠し通せなくて自然と口角が上がってしまう私に、マヨイくんも安心したようでほんのり笑みを浮かべていた。

「あ、でも、私一人じゃこんな可愛くできない、かも…」

貰っても使えなければ意味が無い。ふと数分前の有様を思い出した。三つ編みはできないけれど、普通に結んだところにリボン付ければ大丈夫だろうか。不器用なのが情けない。私の後ろにいるマヨイくんを振り返れば、どうしようもなく顔が緩んだ彼の姿があった。え、どういう感情?

「ふふ、ふふふ………では毎回私が結んで差し上げますよぉ…!」
「え、いいの…?」
「ええ、勿論です。うふ、毎晩のヘアケアに加えて朝にも貴女のお世話ができるなんて…♪」

こんな髪型がいいとかあったらすぐに教えてくださいね、と、るんるんで言うマヨイくんは過去一楽しそうである。マヨイくんならばどんな髪型でも綺麗にやってくれるのであろう。けれど、やっぱり当分はこの三つ編みにしてもらいたいなあなんて、鏡に映る二つのリボンを見て思った。

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