重たい。ふと目が覚めると、なにかがのしかかっているような、そんな息苦しさを感じて一瞬心臓がひやりとする。
暗い部屋の中でうっすらと目を開けて、身体の方を確認するけれども、そこにはいつもの自分の部屋が広がるだけであった。腕はなにかに掴まれているように動かせない。ただ、その感触には覚えがある。
「……なにしてるの」
重いんだけど、と文句を呟けば、ふに、と彼の指が動いた。眠気がまだ覚め切っていないまま、多分彼がいるであろう空間をぼうっと眺める。やっぱりいくら目を凝らしてもそこには天井の広がりがあるばかりで、周りに擬態する能力とはなんて精密なものなのだろう、と感心してしまう。
「なアにぼけっとしてんだよマヌケ」
「ひえっ」
思っていたよりずっと近くから、じっとりとした声が鼓膜に流し込まれた。じわりと視界が紫色に変わっていく。至近距離の話し声にびっくりして短く悲鳴を上げれば、その反応に気を良くしたのか彼の大きな口がにんまり三日月に変わった。ぎざぎさのするどい牙が見える。
「こわいよその顔」
「そりゃあ、それが仕事だしい?」
「怖がらせ屋、だっけ」
子供を怖がらせてエネルギーを得る。彼がうちに転がり込んできたときに聞かされた話だ。なかなか信じがたい話だけれど、モンスターである彼の姿をこの目で見てしまったらもうさすがに疑えない。
鱗に覆われたその姿を上から下まで見てみれば、尻尾はくるりと私の胴体に巻き付かれていて、息苦しさの原因はこれかと合点がいく。見下ろす緑色のぎょろりとした目を負けじと見つめ返してみた。きゅっと瞼が動くのが見える。
「どうしたの」
「………」
部屋は静かまま、物音も立てずに細い身体が布団に入る。なんとなくひんやりとしたその鱗を触ってみれば、珍しくなんのお咎めもなく見逃された。
いつもは怒声が飛んでくるのに。珍しい。
「ねえ、大丈夫?」
「…お前さア、エアコンの設定温度低すぎ」
「あれ、寒かった?」
「寒くて寝れやしないよ」
だから仕方なくお前で暖取ってんの。ぴと、と張り付くように押し付けられた皮膚はざらざらとしている。少しくすぐったくて身体を捩れば、尻尾の締め付けがさらに強くなった。苦しい。
エアコンが付いているとはいえまだ夏真っ只中の夜だというのに、おしくらまんじゅうのようにくっついて横になっている光景は、まるで雪の降る日のようである。
とかげ(っぽいモンスター)とはむずかしい身体をしているものだなあと、私のあたたかい血の巡りを分けるために深く布団に潜った。
変温動物と同じような特性を持つ彼のいいところは、夏場にくっついていても大して暑苦しくならないところである。
と、ぼんやりと考えているうち、ある違和感に気がついた。眠たげにしばしばと瞬きをするその顔を横目に、なんとなく聞いてみる。
「ね、あのさ」
「……なに」
「寒いなら温度上げたらいいじゃん」
普段から彼には遠慮というものがない。昼間は勝手にどんどんエアコンの温度を上げて、こちらが暑くてたまらないぐらいなのに、今になって何を考えてここにやって来たのだろう。いつもならばリモコン一つの操作で済ませているはずである。
「…」
「ねえ、聞いてる?」
「…お前のためだよ。暑いと機嫌悪くなるでしょ」
「でもいつもは容赦なく変えてる、んぶ」
「うるさ、さっさと寝てくんない?」
ぎろりと睨まれる。勢いよく被せられたブランケットに遮られて、発した言葉は上手く音にならなかった。
ぐる、と小さく唸るような声が聞こえる。余程答えたくないらしい。
「分かった、しかたないからなにも聞かないでおいてあげるよ」
「そりゃどうも」
「ついでに抱きしめてもあげちゃう」
「…あっそ」
鬱陶しい、と怒鳴られることは無かった。大人しく腕の中で目を閉じている彼がだんだん暖かくなってきているのを感じる。
先程よりも幾分か穏やかに見えるその顔と共に、私もそっと目を閉じた。