仮面の中身は

「なアに見てんだよ」

イケメンすぎて言葉も出ないか?などとドヤ顔でこちらを見る、天使の輪がついているだけのごくごく普通の人間から、聞き慣れた上司の声がするのがどうも不思議でならない。

初めて素顔を見た。最初の人類だとふんぞりかえっていても、仮面の中は大して驚くような要素もなく、至って普通である。素直に感想を述べれば、ぎゃんぎゃんとうるさく反論された。そんなこと言われても普通なんだもの、仕方ないじゃないか。

「普通普通って連呼すんじゃねえ!この顔の良さが分からんとは罰当たりなヤツめ。後で後悔しても知らんぞ」
「なにを後悔するんですか」
「ハア? アー、そうだな、うーん、もっと褒めておけばボーナスがかさ増しされたかもしれないのに!とか」
「そんな後悔のされ方でいいんですか?」

うるさい!そんなこたあどうでもいいんだよ。先程まで上機嫌だったのにもう不機嫌になっている気まぐれな彼は、机に突っ伏してぐちぐちと文句を並べている。

「たく、私の素顔を見れるやつなんてそうそういないんだぞ!もっとなんかこう、あってもいいだろ!」
「ああ、たしかにアダムはあんまり仮面外さないですよね」
「オイ私の話聞いてんのか?」
「聞いてますよ。なんかってなんですか」

私たちは天国では仮面を外すことの方が多いけれど、アダムはなぜかほとんどそれを外すことはない。そんな彼は何を期待して、ここで素顔を晒したのだろうか。答えを待ってじっと見つめれば、途端にばつが悪そうに視線を逸らされる。

「…なんかってのは、なんかだよ」
「全然分かりません。何?なんで急に仮面取ったんですか」
「だーーっっ!もう、しつこいな!ただの気分だよ!」
「ええ、なんでキレるんですか」

突然の逆ギレは普段と大して変わらない。当たり前だけど、見た目は違っても言動は同じである。
不服そうにじっとりとこちらを見つめる金の瞳には、私の姿がしっかりと映っている。

「……もうちょっと私を意識するとかサア、あるだろ、普通」
「え」
「なんっでこういうのばっかちゃんと聞いてんだよお前は!」

拗ねたようにぼそりと呟かれたそれを、聞き逃すほどできた天使ではない。ファ×ク!!!! などと天国では滅多に聞かない言葉を叫んでイライラしっぱなしの彼に、不覚にも心が高鳴ってしまったのが悔しい。

「…別に、意識してないとは言ってないですけど」

少しの期待を込めて落とした言葉は、随分とできた天使である彼には届かず。いつ気付くんだろうなあとじたばた暴れている上司の姿を眺めながら、中断していた書類整理にもう一度手をつけた。

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