蜜は貴方のもの

「そんなんじゃ金にならねえ。もっとエロく大胆に誘え」
「ご、ごめんなさい。ええと」
「そこで吃るのが問題だ!流れるように淫語を使えるようにならなきゃクビだぞ!」

ぎゅ、と首元に力が入って、空気が体に入らなくなる。生理的な涙とえずく声を聞いて、私の下に寝転ぶヴァレンティノは幾分か機嫌を直したようだった。ふん、と鼻を鳴らすのと同時に、少しだけ弱まった力にほっとする。

「ぼんやりするな。次はどうするんだ?」

今はレッスン中、彼の作品に出られるような演者になるために、ヴァレンティノ直々に手解きを受けている最中だった。見初めてもらったというのになかなか演技をものにできないわたしに、彼は意外にも根気強く指導を続けてくれている。

急かすような言葉と厳しい表情に、また首を絞められてはたまらないと急いであちらに体重をかける。細い腰に恐る恐る手を伸ばすと、ハート型のサングラス越しに細まった赤色の目が私の手を見定めるように眺めていた。
ええと次は、と台本を思い出して、彼の唇に自分のそれを押し付ける。フレームの部分に肌が一瞬当たって、かちゃりと小さな音を立てた。

「ン……ほら、ちゃんと舌を出せ。ぶち込みたくなるようなエッロい口の開き方じゃないとだめだ」
「…ふ、あ」
「そう……悪くない。いい子だな」

金色の鋭い歯が一瞬見える。三日月に釣り上げた口元は間も無くわたしの出しっぱなしの舌を食べて、自分のものより何倍も長いものが口内を暴れ回った。口の端から涎が垂れる。
頭がふわふわとして、次にすべきことが頭から抜け落ちてしまう感覚があった。まずい、これではまた怒られてしまう。

「ん、あ」

流石と言うべきか、当然と言うべきか、ヴァレンティノのこの手のテクニックはとんでもなくレベルが高い。
いつも最初は台本通りに進められるのだけれど、彼からのキスや愛撫が始まってしまうとそれどころではなくなってしまって、その度にわたしは落第点を取ってしまう。

彼が求めているのは与えられる女ではなく、人々に与える女なのだ。わたしはいつもそれに成りきれず、ただの「ヴァレンティノのペット」として嬌声を上げてしまうから、いつまでも作品に出してもらえないままなのである。

「……オイ、演技は?」
「あ……えと、『ねえ、そんな程度じゃないでしょう?あたしがもっとめちゃくちゃにしてあげる』、っ」
「そんな惚けた顔で言われても勃たないんだよ。また上手くできないのか?」

何度言っても改善しないグズにはお仕置きだな。

ぐるりと視界が反転する。先程とは打って変わって、彼がわたしの上に乗ったのを理解して、ああまただめだったのだと心臓が跳ねた。
これから行われるであろう快楽責めの恐怖の中に、ほんの少しの期待が混じって顔が熱くなるのを感じる。そんなわたしを見て、ヴァレンティノはお手本を見せつけるように優しく腰を撫でた。

もう最早、演技の練習をしに来ているのかお仕置きを受けに来ているのか分からない。どうして彼は、出来損ないのわたしにこんなに構ってくれているのだろう。ふと思い浮かんだ疑問は、すぐにピンク色の煙にかき消されていった。








「おい、またあの女とヤッてたのか?あれは使い物にならないと言っていただろう」
「なに?妬いてんの?」
「……はあ、ヴァル。誤魔化すのはやめてくれ」

利用価値がない者はここには必要ない。
呆れたようにぴかぴかと液晶を光らせている男は、彼のビジネスパートナーの振る舞いが大層気に入らない様子であった。そんなハニーを見て、ヴァレンティノは笑みを深める。彼は男からの執着が感じられる瞬間を特に好んでいた。

「演技指導だよ、え、ん、ぎ、し、ど、う。使えないから使えるようになるまで抱き潰してるんだ。なかなか才能は出てこないけどな」
「才能を引き出す気なんてないんだろう?見てれば分かる。そもそも、練習させたいのならそこらの俳優と部屋に放り込めば良いだろう」
「ああ、そうだな。ただスターにしたいだけならそれか一番早い。てか、そもそも大々的に売り出したいならあんな脚本はあいつにやらせない」
「ああ……成程」

ヴァレンティノは、彼女をこの部屋に連れてきたことがない。それは理解の得られない楽しい玩具を取られないためであり、情けないペットをサメの餌にしないためでもあった。

「ずうっと指導だって信じて止まずに、健気に乗ってくる頭の弱さがカワイイんだよ」

そのピュアなエロさを堪能せずに、早々に捨てるのは勿体無いだろ?
至極楽しそうに羽を広げて、ヴァレンティノはにやりと笑う。いつになっても表舞台に立たせてもらえない彼女は、さしずめ手折られた一輪の花であったのだ。

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