「おお!こんなところで奇遇だな!」
「あれ、なんで天国にいるんですか」
ここでは聞くことはないと思っていた声を聞いて、顔を上げる。と、途端に金と赤が目に痛い装飾が目に飛び込んできて、思わず目を細めた。地獄にいるとあんまり分からないけれど、私の友人は結構目に悪い配色をしている。
「たまたま呼ばれていてね!気分が良かったから来てみたんだ」
「今日は躁の日か〜」
今日も機嫌が良さそうである。最近はなんか機嫌良い日が多いなあ、と呑気に考えていたら、目の前の彼の顔がふいに地獄の王の顔になった。なんだ?と思った矢先、ドスの効いた低い声が頭上から降ってきた。
「なにやってんだ?クソビッチ」
「え」
「やあアダム!久しぶりだな!まだ彼女と仲が良さそうで良かった良かった」
常々彼女から話は聞いているよ、などとぺらぺら喋るルシファーは完全に煽る体制だ。私はというと、聞いたこともない意中の人の声に恐る恐る上を見て、大後悔しているところである。ぐ、と力強く肩を引かれて、後ろのアダムにもたれ掛かる形になった。
「なンっでお前とこいつが知り合いなんだよ!」
「悪いが、知り合いどころか親友だ。いやあ、地獄で初めて会った時は驚いたよ。天使が迷い込んで地獄に怯えて泣いているのかと思ったら、自分が嫌で泣いてると訴えるものだから、私がもう一人いるのかと思った!」
「えっ、あの時の笑顔ってそういう笑顔、んぐ」
黒い手が口を塞ぐ。ちら、と彼の方を見てみると、今にも人を殺しそうな鋭い眼光で睨みつけられてすぐに目を逸らした。やっぱり地獄行くのってそんなにやばいことなんだ。じわ、と後悔の涙が滲む。ルシファーが言ってたように追放待ったなしかもしれない。
「ああ、泣かないで。もし追放されても約束通り面倒は見るさ」
「ハア!?約束ってなんだよ!てか、こいつが地獄なんかに行くわけねえだろ!私のだぞ!」
「お前のだった前の妻たちはこっちに来たが?笑」
「ファ×××ク!!」
中指が見事に天を向いている。前の妻っていうのが引っかかるけど、聞くのが怖くて言及をやめた。
故郷には知らぬが仏という言葉がある。
「まあそう怒るな!私のところに来ても彼女は正直気持ち悪いぐらいお前の話しかしてないから安心しろ!」
「うるせえさっさと地獄に戻れ!二度と面見せんなクソジジィ!」
わかったわかった、じゃあまたな!にこやかに羽を広げた彼につい癖で手を振ると、ばしんとはたき落とされる。ひりひりと手の甲が痛むのと同時に、空気もひりついているのを感じて、思わず鳥肌が立った。
間もなく扉が閉まる音が響いて、辺りが静かになる。ゆっくりと離された口を塞いでいた手はそのまま私の腰へと流れ、逃してたまるかというようにがっちりとそこに固定された。冷たいその手と、痛いぐらいに突き刺さる視線に、自然と背中が丸くなる。
「さアて、私の目の前で他の男に尻尾振ってる見境無しのビッチに、お前が誰のものなのかみっちり叩き込んでやるよ」
アダムの頭上で光る輪が、ぎらぎらとこちらを照らしている。乱暴に抱き寄せられた衝撃に目を瞑って、明日の自分の無事を主に祈った。