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「ここに居たのか」
「…っ!?」
「大丈夫です、もうこの街にミリッツァは居ません」
民家にシーツを被って隠れていたのを見つけ出した。
人の家に無断で長居する訳にもいかなかったので、一旦外へ出て私達は彼女に事情を聞く事にした。
かなり警戒していたが、ヴェイグの幼馴染とティトレイの姉を助け出す為に情報が欲しいと説得を試みると、ようやく彼女は納得したのかレースが施されたホワイトグローブを纏った両手を胸に置いて頷く。
「助けてくれて…ありがとう
私はスージー、ベルサスでヒューマとガジュマの二人組に捕らえられてしまっていたの」
「サレとトーマだネ」
「他の女の子達と一緒に船に乗せられて、カレギア城へ運ばれたわ…
そこには各地から集められたヒューマの女の子達が大勢いたの」
なら、クレアさんとセレーナさんもカレギア城に?
スージーに二人の名前に覚えがないか聞いてみると、彼女は首を横に振る。肩を落としそうになるが、バルカに着いていないだけかもしれない。だとしたら、まだ追い付ける可能性は充分ある。
…そして、アガーテ女王に謁見の許可を与えられたとスージーは話を続けた。
多忙な身である女王は同じ年頃の娘と関わる事はほとんどない。だから休息の間だけでも誰かとお茶を飲んだり、会話をしたいだけ。そう説明を受けたとの事。
そのくらいなら…とスージーも承諾しアガーテ女王に会って、少し会話を交わした。すると突然、目の前が真っ白になって気を失ってしまったという。
完全に気を失う前にアガーテは「何故、受け入れてくれないの」「早くしないと」と呟いていたようだ。
「目が覚めたら元の部屋に戻っていたわ…」
「それで…?」
「よく分からないけど、このままここに居たら大変な目に合う気がして…
仮病を装って部屋を出た後、ゴミの袋に隠れてお城の外へ出たの」
そして船に乗り込んで、サニイタウンまで逃げてきたがミリッツァに見つかってしまったという事か。
肉体的にも精神的にも辛かっただろう。触り心地の良さそうな布地が所々破け、汚れているのが何より物語っている。
「私が話せるのはこれだけよ…」
「スージー、ありがとう。
それで君はこれからどうするつもりなんだ?」
「お父様も心配してるだろうし、ベルサスへ帰りたいのだけど…」
「ミリッツァは手負いで逃げていったが、他の追っ手が再びベルサスへ行くかもしれない」
「そうだネ!しばらく落ち着くまで、この街に居た方が良いんじゃない?」
「ありがとう、そうするわ
お礼がしたいから、もしベルサスに来る事があったら私を訪ねて」
話し終えたスージーはにこり、と笑って頭を下げると街中へと歩いて行った。
「単なる話し相手を探していただけって訳じゃなさそうだな」
「急に気を失うなんて、何かをされたとしか思えないよね…」
「ああ…女王はあの娘に何かをしようとしたのは間違いない。だが、上手くいかなかった…」
「そして、その何かを一刻も早く成功させようとして焦っている…」
攫ってまでヒューマの娘を集めるアガーテ陛下の目的が理解出来ず、クレアさんとセレーナさんへの心配が募る一方だ。
歯を食いしばり、固く手を握るヴェイグを横目に見ると、その背後にある掲示板に気が付く。
近付いてみると、いくつもの貼り紙がされていた。中でも一際大きな貼り紙に自然と惹かれ、書かれた文字を辿る。
…ゴルドバの日、儀式…これって…
「何々、どうしたの?」
「この掲示板に書かれてるゴルドバの日ってもうすぐだよね」
私の様子が気になったマオがひょっこりと顔を近付けてきて、同じ様に掲示板を見る。
古代勇者ゴルドバが初代国王に即位した記念日、言わば祝日だ。
ちょうどその日に女王陛下のお披露目の儀式を執り行う。故に一部を除いた全ての港を閉鎖し、バルカへの往来を禁ずる。…といった内容が書かれているみたいだった。
「もしかして、お披露目の儀式の為にヒューマの娘が必要という事でしょうか?」
アニーの推測にティトレイが「何だか嫌な予感がするぜ…」と呟く。
先程のスージーの話もあるし、ゴルドバの日に行われるのは「ただのお披露目」では無い事は確かだ。…急いだ方が良いかもしれない。
「一部を除いた…って書いてあるけど、これって閉鎖してない港もあるって事だよね」
私が貼り紙の文字に指を添わせると、ヒルダが思い出したように口を開く。
「バビログラードね。トーマがそこで四星と合流して、バルカへ戻るって話をしていたから
…信じるか信じないかは自由だけど」
「もちろん信じるぜ!よっしゃ、行き先は決まったな!」
「バビログラードへ行くにはクロダダク砂漠を越えなければならない。充分準備してから行くぞ!」
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