縺愛成呪
意図的に染められた闇色が溶けて一変、清々しいほどの青空が広がる。それは、任務の終わりを告げる合図だった。今日も帰ったら報告書を書かないといけないな。今日は1人じゃないけれど、きっとあの人は私に丸投げしてくるに違いない。そのことを少し憂鬱に思いながらもぼんやりと空を見上げた。今日は大した怪我も無く終わったけれど、この夜明けを見る度に私は何度この光景を見ることができるだろうかと時々考えてしまう。『……五条くんはさ、自分の最期について考えたことある?』
「どういう意味だよ」
『そのまんまの意味だけど。その様子じゃ無さそうだねえ』
久しぶりの五条くんとの合同任務の帰り道、ふと気になったことを口にした。隣を歩くその人は同期であるが私とは違っていつも余裕そうに、というよりか余裕を通り越してつまらなさそうにしている。実力があるのは本当だから、ほとんど何もできない私が偉そうに言えることではない。事実、今日の任務だってほとんど五条くんが祓ってくれた気がするし。ただ、そんな才能に恵まれた君が、私とは違う君が、死と隣り合わせの呪術師という生き方に何を抱いているのか。少しだけ気になった。
「おい、勝手に完結すんな」
『ええ、だって分からない五条くんに話しても馬鹿にされそうだもの』
「いいじゃん、話してみろよ」
『……はぁ、まあいいや。この間の任務で死にかけたときに、死ってなんだろうと思ったんだけど』
死ぬのが怖いわけじゃあないんだ。だって、私は
でもね、君に出逢って少しだけ考えが変わったの。独りで呪霊に喰い殺されるのは嫌だなあ、誰かがいてくれる方が幸せだなあって。死んじゃったらどうせ独りなんだもん。最期の最後に、
『……独りは寂しいな、って』
「はぁ?」
まあ、そう思えるようになったのは最近なのだけれど。君はきっと知らないでしょう。
『ううん、やっぱりなんでもない』
「あっそ、意味わかんねぇ」
私とは違って、君は生まれもった才能が大きすぎて何でも出来てしまう。そんな君を羨む人間はきっと沢山いて、その才能に縋る人間も沢山いて、誰にもわからない重圧を抱えてるだろうに、なんてことないように振る舞う。その姿が少し格好良いと思ったのだ。
他の同期は君のことを揃ってクズだと言うけれど……いや、まあその節は確かにあるけれど、それでも他の誰にも負けないくらい優しくて真っ直ぐで素敵な人だと私は思う。
「なぁ、俺の顔になんかついてる?」
『ん?別になにも』
「じゃあ、なんでさっきからチラチラこっち見てんだよ」
『内緒』
君のことだから忘れてしまったかもしれないけれど、私のこと雑魚だって笑うくせに、前の合同任務で報告にない上級呪霊が現れたとき。私がまだ生きることに興味を見出だせなかったあのとき。君が呪霊を祓ったあとに、勝手に死のうとするな、なんて本気で怒るものだからうっかり惚れてしまったこと、本人に言えるわけがないのだ。君からすればただの気まぐれだとしても、私にとってはそうじゃなくて。
いままで誰にも必要とされていなかったから、早く死んでしまえばいいと思っていた。だからいつ死んだって誰にも迷惑を掛けない道を選んだはずなのに、あのときから少しだけ死にたくないなと思うようになったのは君のせいなんだよ、五条くん。
× × ×
昼間の合同任務のあとには嫌がらせのように舞い込んだ単独任務。雑魚ばかりとはいえ、俺だって疲れないわけではない。やたらと長く感じた1日も漸く終わり、誰もいない共有スペースで垂れ流しになっているニュースを興味も無いのにぼんやりと観ていた。
それは殺人事件で、痴話喧嘩が発展してつい魔が差したと犯人らしい男が映されていた。実に馬鹿馬鹿しい、そんなの動機にならないだろ。本当は愛していただなんて見苦しいだけの言い訳が何になる。
「はっ、くだらねぇ」
『そう?わたしは幸せだと思うけど』
「あ?」
『好きな人に殺される最期の方が、よっぽど幸せだと思うよ』
いつのまにか現れたソイツはそう繰り返した。俺の他に3人しかいない同期のうちの1人だが、なんだかんだ馬鹿騒ぎしている他の2人とは違って、任務で一緒になるとき以外にはあまり関わってくることのない奴。ついでに言うと、大した術式も持たない雑魚である。その程度でなんで呪術師になりたいんだか、わかんねぇ。そんな奴に任務以外で話しかけられたことが意外だったからだろうか、ただなんとなく気が向いたから話に乗ってやろうとそう思った。
「お前、馬鹿じゃねーの?んなの、どこが幸せなんだよ」
『だって、看取ってくれる人がいるんだもの。十分幸せでしょう?それとも、君は呪霊に喰われる方がお好み?変わってるね』
「はあ!?誰もそんなこと言ってねぇよ、そもそも俺がそこらの雑魚にやられるわけねーだろ」
『ん〜、それもそっか』
一人頷いて黙り込んだ女をちらりと見る。
昼間の話といい、今の話といい……そんなに死にてぇのか?そんな考えがふと過る。
にしても、呪術師をやっていれば悔いのない死に方ができることなんてほとんど無いに等しい。そんなこと、流石にコイツだって分かっているだろう。それなのに、あまりにも羨望の色を滲ませて画面の向こうを見遣るものだからなんだか無性に腹が立った。なにが嬉しくて、死に際を夢見るんだか。
その瞬間、微かに響いていた雑音が消え去る。少し驚いたような女の視線を受けて、初めて雑音が消えた原因が俺にあることを理解した。無意識のうちに手繰り寄せたらしいソレは、まさしく不快な映像を消し去る装置であった。
『なにかあった?』
「……別に」
俺の唐突な行動を不思議に思ったらしい、もっともな疑問。普段あまり表情が豊かとはいえない女は少し眉を潜めてそう問うた。ああ、もう、んな表情で見られても、俺もわかんねぇし!
思わず舌打ちを漏らしそうになるのをなんとか抑えて、誤魔化すように口を開いた。
「つーか、お前さあ、やっぱ呪術師向いてねーよ。さっさとやめれば?」
『それはまた唐突だねえ』
「あ?別にいいだろ」
なんだか変だ。コイツが、じゃなくて俺が。万年人手不足のこの世界には、向いてないくせに居続ける奴はそこそこいる。まあ、やりたい奴らがやればいいと思うし、そいつらがどうなろうと俺の知ったことではない。それなのに俺は今なんて言った?……今の、まるで、コイツを心配してる、みたいな。
身に覚えのない思考に悶々と悩む俺を余所に、君はそういう人だもんねえ、なんて溜め息を吐いたソイツは困ったように笑う。それは今までに見たことのないような表情で、不覚にも心が揺れた、気がした。
『……まあ、五条くんの言うとおりかも』
考えとくね、と小さく漏らして立ち去る後ろ姿がなんとも寂しげに見えて頭から離れなかった。
× × ×
いま思えば彼女との接点は傑や硝子と比べて数えるほどしかなくて、彼女のことは何も知らないといっても過言ではない。それでも、ふとした瞬間に交わした言葉の中に、寂しさというか儚さというかそんな何かが見え隠れして、それがどうにも心を掴んで離さない。これが世にいう一目惚れなのだと、そう思った。
「んで、俺に用があるって何だよ?」
『急にごめんね。その、私呪術師やめようと思ってて』
まだ空は深い夜に塗りつぶされたままだというのに、唐突に呼び出されたかと思えば彼女が溢したのは未来の話だった。卒業も間近に控えて、ずっと気づかないフリをしていた彼女に対して抱く感情が何なのか、漸く受け入れようと決めた俺は少しだけ焦りを覚えていた。卒業してしまったら彼女が何処か遠くに逝ってしまいそうな気がして、必死に繋ぎ止めたくて彼女の進む道をそれとなく聞き出そうと試みたものの、曖昧に笑って流されたことは何度あっただろうか。
「……そ、別にいいんじゃね?お前、向いてないじゃん」
『そういえば、前にも言われたことあったね』
「だって、事実だろ」
『まあ、否定はできないかなあ』
こんなときですら彼女への想いをどうにも言葉にできなくてもどかしさを感じる、しかし幸か不幸か当の本人はさして気にしたようでもなくどこか懐かしむようにそう言った。
なにはともあれ、彼女がこの世界から抜けるというのは寂しい気持ちはあれど、漸く彼女がもっと安全な世界で生きられるならばその方が良いに決まっている。今となっては、才能の有無ではなく、優しい彼女は此処にいるべきではないとそう思うのだ。
「それで、辞めてどうすんの。どっか就職でも決まったわけ?」
『ううん。企業とかじゃなくて』
寂しさと嬉しさの入り混じる感情を抑えて、彼女の行く道を問う。俺の言葉にゆるくかぶりを振って、一拍置いた彼女は僕を見上げて普段と変わらない微笑みを浮かべて言い放った。
『私、傑くんのところへ行くよ』
「は?」
『だから、呪詛師になるってこと』
今から散歩に行ってくる、とでも言っているような。そんな何気ないトーンで、今コイツなんて言った?
呪詛師、彼女からそんな単語が飛び出るなんて思ってもいなかったかものだから、必死に平静を装ってなんとか言葉を探す。
「……それ、本気で言ってんの?」
『こんなこと冗談で言わないよ』
聞き間違いであってくれという僅かな希望も呆気なく打ち砕かれる。
それでも、彼女は静かに微笑むだけだった。
× × ×
「なッ…んでだよ、誰に言われた?傑に唆された?お前、自分が何言ってんのかわかってるよな?」
『わかってる。でもね、誰に言われたわけでもない、これは私の決めたことだから』
ごめんね、私が狡くて弱い人間で。君の助けになれるくらい有能だったならば、どれほど良かっただろうか。
『五条くんは知らないかもしれないけど。非術師の家庭に生まれた呪術師は、多くが気味悪がられて、馬鹿にされる。除け者にされるの』
「それは、」
『そんな、今まで私のこと蔑んできた人たちのために命を掛けるの、馬鹿らしいなって』
ヘラリと笑ってみせれば、君は見たことないくらいの剣幕で私に詰め寄る。逃がさないとでもいうように力任せに掴まれた腕は結構痛いんだけど、君はそんなのお構い無しみたい。
「んなの、呪術師やめればいいだけだろ?呪詛師になる理由にはならねーよ」
『それでも呪術師をやめて社会に出たら、高専に入る前に逆戻りなんだよ』
「なら、補助監督になればいいだろ!そうすりゃ、少なくとも…!」
ほら、こういうところ。本気で引き止めてくれる、そんな君の優しさのせいで勘違いしてしまいそうになるけれど、
『それじゃあ駄目なの』
「……理由は」
『それは、言えない』
言えるわけがないんだ。君の隣に立てないのならば、君の足手纏いになるくらいならば、いっそ距離を置きたいだなんて幼稚で自惚れた理由を。
× × ×
それは、とある任務終わりのことだった。覚えのある残穢があったものだからその元を辿ると、その先にいたのは
『そこにいるの、夏油くんだよね?』
「おや、バレてしまったか」
『まあ……これでも呪術師の端くれというか、君が同期だからというか』
今となっては特級呪詛師として名高い夏油くん。
まさか、のこのこ殺されにくるような人ではないし、そもそも私には夏油くんを殺せるほどの実力はない。そして、彼もそのことはよく知っているはずだ。だというのに此処に来たということは
『私に、何か用でもあった?』
「正解。流石、君は話が早くて助かるよ」
そうやって笑った彼は、最後に会ったときよりもなにか吹っ切れたように見えた。
『前よりも元気そうでなによりだけど。どうしたの?』
「そうだね。君を勧誘しにきた、といったら信じてくれる?」
貼り付けたような微笑みを浮かべる彼は、わりと表情に出るどこかの誰かとは違って、なんとなく胡散臭くて本心が読み難い。それでも、ただの冗談には聞こえなかった。
『なんで?』
「決まってるだろ。呪術師だけの世界を造るんだ」
『そうじゃなくて!何故、私なの』
過去の経験も相まって人付き合いが苦手な私は、数少ない同期に対してもなんとなく一線を引いていた。ううん、人付き合い云々だけではなくて、才能の差が大きすぎて敬遠していたという理由もあるのだけれど。
そんなこんなで、在学中に彼と関わったのは任務で一緒になったときくらい、あとは何故かテンションの高い五条くんに巻き込まれて深夜の桃鉄に強制参加させられたことが数回。五条くんに比べると控えめな彼と交わした言葉はそう多くなかった筈だ。
「君が欲しいから、では駄目かい?」
『え、』
そんな、言ってしまえば友達未満のような浅い関係の彼から、さらりと吐かれた告白紛いの言葉が本気でないことはわかっても、彼の真意は私にはわからなかった。いや、
「私なら君を悲しませたりしないよ」
『それ、どういう意味?』
「だって君、前から悟のことが好きだったろ。でも、どうだい?」
本当はわかりたくなかったのだ。たしかに私と彼は友達未満。それでも、彼は他の誰にもなれなかった五条悟の親友なのだ。
きっと、このとき兎に角この場を離れるべきだった。そうは思っても、核心に触れる彼の言葉を、突きつけられる事実をどうしても無視できなくて、足が縫い付けられたように動かない。
「今のままでは、きっと悟が君に向き合うことはない。それでも君は悟を追いかけるのかい?隣に立てる訳がないと知りながら?はっきり言って足手纏いだろうね」
私だって知っている、あの人が最強となった日から誰の手も取ろうとせずに独りで背負っていること。そうでなければ、いま目の前に彼がいるはずないんだもの。親友である彼にできないことを私にできる訳がないって、自身が一番わかっているのに。
「君が呪術師で在り続ける理由が、悟への好意から成るものだと言うならば。私はお勧めしないよ、ソレは君を苦しめるだけだ」
『そんなのッ!』
「じゃあ、聞くけれど。君は、最強となった今の悟の中に君という存在があると本当に思っているのか?」
彼の言葉はきっと間違っていない。私だって薄々感じていた。五条くんにとって私はその他大勢の雑魚でしかなくて、きっといてもいなくても変わらない。
それでも。叶うならば少しでも助けになりたいと思うことは、間違っているのだろうか。
『……どうすれば、よかったの』
小さく漏れたその言葉に、彼は微笑みを深めてその答えを口にした。それは、予想だにしない選択で。
「なに、今からでも遅くない。君が呪詛師になれば、悟は嫌でも君に向き合うことになるだろ」
『それ、は』
「だから最初に言ったじゃないか。君が欲しい、とね」
それは間違った選択肢だと頭の片隅ではわかっていたはずなのに、何故か酷く甘美な響きに思えて心が揺さぶられた。だから、つい口走ってしまったのだ。少しだけ考えさせてほしい、と。
「う〜ん、他でもない君の頼みだし……仕方ないね。次の満月まで待ってあげよう。だから、よく考えておいで」
やや不満げにそう残して、彼はくるりと背を向けた。
ひらひらと手を振りながら立ち去る彼に対して、私といえばなす術もなく立ち尽くすことしかできなくて。
「私に堕ちておいでよ、なまえ。待っているから、ね」
彼が嗤いながら独りごちたことなんて、知る由も無かった。
× × ×
「〜〜ッもういい!どうせ聞かねぇなら好きにしろよ。こっちにも考えがあるから」
ギリギリと食い込んでいた掌が突如離れたから少しだけよろめく。そんな私をただ見ているだけの君は、それはそれは美しく嗤った。他の2人とバカ騒ぎしているときとも、街で綺麗な女の人と歩いているときとも違う、知らない表情。嗚呼、なんて綺麗なんだろう。場違いにも私はそう思った。
「絶対にアイツの所へは行かせてやらねーから」
地を這うような声。今までにないくらい冷え切った青色の瞳。誰よりも澄んだ呪力が揺らめく。
君が、いまから何をしようとしているかなんて一目瞭然だった。
『ごめん、ね』
「別にそんなの、聞きたいわけじゃないんだけど」
自他共に認める最強の、きっとほんの一部なんだろうけど。それでも、その力に圧倒されて思わず零れた宛の無い謝罪。その言葉にハッとした君は、少しだけ悲しそうに笑った。
なんで君がそんな表情をするのかわからなくて、仕舞い込んだはずの期待が溢れ出しそうになって慌てて目を逸らした。
束の間の静寂が辺りに広がる。なにも言わない君はやっぱり優しいよね。だからこそ、
『……ごめん』
君の傍にはいられないんだ。
耐えきれなくなって無言の駆け引きに投げ込んだのは、情けない謝罪であり、拒絶の言葉。
「あっそ、なら仕方ねーよな」
恐ろしく静かな声音で、そう呟いた君はぐっと私を引き寄せた。
わかっていても、強張る身体はもうきっと言うことを聞いてくれないのだろう。せめてもの抵抗として、私よりずっと高いところにある空を真っ直ぐに見つめた。思えば、こんなにも真っ直ぐに君を見つめるのは初めてかもしれないね。
「今なら、引き返せるけど?」
しなやかで、それでいて骨張った、男の人らしい指先が頬を優しく撫で上げる。私の知らない感覚だった。君が触れたあとが、どうしようもなく熱を帯びて、このまま君に溺れてしまいたくなる。
こんなときに、はじめてのことばっかり。出来れば知りたくなかったなあ、君の甘さを含んだ声だとか、熱を孕んだ瞳だとか、触れる手の温かさとか。
こんなの、期待してしまう。そんなの、なおさら
『だめ、だよ』
「ふうん、思ったより強情じゃん」
つまんね、と吐き捨てる君から熱が引いたのがわかった。するりと落とされた手の行く先は、ただひとつ。
「……お前が、そんなに馬鹿だとは思わなかったわ」
先刻までとは打って変わって冷えきった指先が首を優しく絞め上げる。それと、同時に掌を通して伝わる君の真っ直ぐな
「呪力を以て殺せば、死後呪いに転ずることはない。お前も知ってるよな」
気道が塞がれて息ができない、
すっかり熱の冷めた蒼は、ただ私の行く末を眺めるだけで他には何も映さない。
「最初に言っただろ、アイツの所には行かせねぇよ」
君から零れ落ちた、その言葉は……君の、独占欲だと勘違いしても許されるのだろうか。なんて最期に都合の良いことを考えてしまうのは、脳まで酸素が回らなくなったせいにしておこう。
段々と意識に霞が掛かるような感覚にゆるりと近づく夜が見えた。案外怖くないんだなあ、なんて思えるのはきっと送り出してくれるのが君だから。
『……うん、ごめ、ん、ね』
君がなんて言ったのかわからない、そもそも私の言葉が届いたのかすらわからないのだけれど。
どうか
『さ、とる、くんのこと……あ、いして、る』
私の、最期に吐いた
× × ×
だらりと垂れる四肢が事の終わりを示していた。知らない人間からすれば、ただ眠っているだけのようにもみえる穏やかな表情がせめてもの救いだろうか。
「……ははっ、馬鹿はどっちだよ」
なにが、救いだ。彼女に告げた通り呪いに転ずることもない。正真正銘、彼女……なまえはこの世を去った。あろうことか、俺のせいで。
「なぁ、なまえ」
ごめんな、お前のことちゃんと見てやれなくて。
なにが、最強だ。身近な人間のひとりも救えない最強なんて何になる?
そんなの、俺のこと恨んで当然だろ。いいよ、赦さなくて。ただその代わりといっちゃあ、なんだけど。
「お前のこと、赦さないから」