勇気をくれる
「うーん…もう一回、頑張ってみよう?」
先生の困ったような顔が視界いっぱいに広がって、手に持っていたえんぴつをきつく握りしめる。
何回やってもいっしょ。みんなと同じことがあたしには出来ない。
紙に並んだ文字になりきれない黒いかたまりが、あたしを笑ってるように見えた。
「ニャア!」
「うっ!」
どすん!とおなかに重いものが乗っかって、驚いてぱっと目を開いた。
大きなアーモンドみたいな目と目が合うと、その目はにんまりと細められて、半分のお月様みたいな形になる。
「ニャーン」
「げっ」
ツメを長く伸ばしたニャースは、にんまりと笑顔のままで、ツメを擦りあわせて耳の奥に直接響いて頭の中を揺らすような嫌な音を奏で始めた。
「にゃ、ニャーーース!!」
「ニャーン」
大きな声を出すと、ピタリと音が止まる。
唇をとがらせながら、目の前でしてやったりといった様子でニャフニャフ笑っているニャースに向かってもう!と怒ったような声を上げた。
「いきなりおなか乗ったら苦しいでしょー!あとその音やめてってばー!」
「ニャーン」
「もー!」
ベッドからぴょんと飛び降りたニャースは、一度あたしの方を振り返ってから、リビングへと続く扉を器用に開けてさっさとあたしの部屋を出て行った。
ニャースが出て行って、静かになった部屋でぼんやりと天井を見つめる。
見慣れない部屋に、慣れ親しんだ布団の匂い、それがなんだか不思議で笑ってしまう。
「………」
ベッドから降りて、窓の外を見ると、大きなお月様が島を照らしていた。
風に吹かれて揺れる見たことのない木に、キラキラと揺らいでいる海。潮の香りを胸いっぱいに吸い込んで、大きく息を吐く。
「あたしにも、出来ること…」
月を見上げて両手を握りしめる。
「あれ?」
ふと見た草むらで、一瞬何かが光る。
パチパチとはじけるように光るそれは、どんどん小さく弱っていくようにも見えて、気づいたら、窓から外へ飛び出していた。
気のせいだったらそれでいい。
でも、そうじゃなかったら…。
裸足のまま、柔らかい草の上を走り出す。握りしめたままの両手は、少し震えていた。
▽
「ユヅヒ〜?……あら?」
ニャースに起こしてもらったのに、一向に起きてこない我が子の様子を見るため、声をかけてユヅヒの部屋に入ると、ユヅヒの姿はそこになく、大きく開いた窓から夜の冷たい風が吹いてくるだけだった。
「どこ行っちゃったのかしら…?」
布団に触れると、まだ暖かく、先ほどまでここにユヅヒがいたとわかる。開け放たれた窓の外を見るが、ユヅヒの姿はもう見えない。
「ニャフニャ」
「あら、ニャすけ…探してきてくれるの?」
「ニャーン」
「じゃあ……頼むわね。危ないことはしないようにね」
窓の縁に立ったニャースは自分に任せろと言った様子で胸に手を当て、ニャ、と短く鳴いた。
「楽しく冒険してるならいいんだけど…」