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パチパチとはじける光がまぶしくて思わず見入ってしまった。


学校中に響き渡るチャイムの音を聞きながらぼーっと窓の外を眺めていた。グラウンドでは陸上部が走ったり飛んだり投げたり、サッカー部がボールを転がし土煙を上げていたり。部活動に励む生徒達が青春を謳歌している。
そんな中、グラウンドの端で何かがパチリと輝いた。

なんだあれ

窓にこつんと額を当てて、光る何かに目をこらす。
パチリ、パリ、パチンッ
どこからかそんな音が聞こえて光がまたはじける。
丸みを帯びた長い耳が跳ね、黄色くはじける光を小さな両手で一生懸命振りかぶる。

「マイナン、だっけ」

両頬にマイナスのような模様があるピカチュウのようなポケモン。携帯でその名前を検索すると、おうえんポケモンという文字が最初に目に入った。仲間を応援する習性があり、体から発生させた電気をショートさせ火花をボンボンに見立てて応援するポケモン。ポケモンのことはよく知らないけど、不思議なポケモンだ。
知っている人間が部活動で汗を流しているのか、あのマイナンの仲間には人間も含まれているのかは分からないが、跳ねたり両手を大きく広げたり、全身で応援を楽しんでいるということだけは伝わってくる。

はじける光も相まって、私は誰かを全力で応援するそのポケモンをずっと見てしまっていた。


「おーい!」
「は!ぃ……」

突然声をかけられ、跳ねる心臓を押さえながら後ろを振り向くと、担任の先生が鍵を持って立っていた。

「下校時間だぞ、早くうちに帰れ〜」
「、はい…」

気づけばもうそんな時間だった。
グラウンドをよく見ると、部活動をしていた人たちは道具を片付けたり、下校準備に取りかかっていた。そんな中、マイナンだけはまだ誰かを応援していた。片付けてる人を応援してるのかな。
また窓の向こうに見入ってしまいそうになったが、先生から声がかかり急いでカバンに筆箱やノートを詰めて教室から出る。その際に鍵を職員室に返しておいてくれと頼まれてしまった。意味も無く教室に残るもんじゃないや。

独特の雰囲気の職員室をなんとか切り抜け、やっと玄関ホールまでたどり着く。もうみんな帰ってしまったのか、いつもは騒がしい玄関もしんとしている。スッと背筋が寒くなり自販機であたたかい飲み物を買って足早に外へ出た。

また光がはじける。

視界のどこかではじけた光を探すと、あのマイナンはまだ応援を続けていた。グラウンドにはもう誰もいなくて、なんとも言えない感情がわき上がる。形容しがたい感情に胸を押さえて、パチリパチリと光をはじけさせるマイナンに近づく。

「ぁの、」
「マィ?」

かけた声は思いのほかはっきりしなくて、少し不安になる。それでも声は届いたようで、パチンと電気がはじけて消える。それと同時にマイナンが声をかけた私の方を振り向く。

「えっと、もうみんないないよ…?」
「!?」

言葉が伝わっているのか、マイナンはグラウンドを見渡し驚いたような顔で固まっていた。今まで気づいてなかったのか、すごい集中力…って言うのかな?夢中になりすぎてた?

「……すごいね」
「?」

マイナンの目線に合うようにしゃがみ込む。まん丸な黒い目はじっと私を見つめていて、どこからか焦りのような感情が湧いてくる。じわりと浮かんだ感情はなんだか恥ずかしくて、私は無意識にマイナンの方へと手を伸ばしていた。

「いッ!」
「マィッ」

バチンッと電気がはじけた。静電気が起こったのか指先に小さな痛みが走る。

「あ!まって!ごめんなさい!」

驚いて逃げようとしたマイナンに慌てて声をかける。一瞬立ち止まったマイナンに、一言。

「あなたの応援、すごく素敵だった!」
「マィ……」
「あ、いきなり触ろうとしてごめんなさいっ!えっと、あの……」

完全に足を止めたマイナンに、少し焦る。走り去っていくと思っていたから。少し言葉に詰まりながら、どうにか謝罪する。

「……」
「、教室からあなたのこと見てて、」
「!」
「なにもない自分が恥ずかしくなるくらい、あなたの応援が輝いて、みえて……」

どんどん言葉は小さくなって、マイナンのまっすぐな目から逃げ出すように視線をそらす。
ポケモン相手になにを言ってるんだろう。伝わっているかも分からないのに。そんな考えが頭に浮かんでは消え、ため息をつく。

「っ、」

ふと目を上げるとマイナンの目はしっかりとこちらを見据えていて、ドキリと心臓が跳ねる。

「マイ!」

笑顔でそう鳴いたマイナンは、私の気のせいかもしれないけど、ありがとうと言ったような気がして、なぜか心がスッと軽くなった。







昨日はどうやって帰ったか覚えていない。鳴き声を一つおいてマイナンはどこかへ行ってしまった。住処に帰ったのだろうか。気がついたら家に帰っていた。昨日のマイナンの笑顔がずっと頭に残っていて、昨日からずっと心がふわふわしている。マイナンの静電気を受けたからなのか、なんて。
チャイムの音が鳴り響き、終礼の挨拶をする。騒がしい教室からグラウンドを見ると、もう部活動の準備をしている人がいて、昨日と同じ場所に、マイナンもいた。

「かえろー」
「あ、う……ん…」

友人に声をかけられ鈍い返事を返したけど、やっぱり気になってまた窓の外を見る。
パチリ、光がはじけた。

「……ごめん!先帰ってて!」

カバンを肩にひっさげて、驚いたような声を上げる友人に平謝りを繰り返し食堂へと急いだ。玄関ホールにある自販機は部活前で混んでいるし、と冷たいスポーツドリンクを2本買った。


グラウンドの端でパチパチとはじける光は今日もまぶしくて、少しめまいがしそうだ。でも、全力で応援を楽しむマイナンは今日もかっこよかった。

「マイナン、頑張れ!」
「マイッ!」

広い学校のグラウンド端っこで光と、笑顔がはじけた。


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